大統領府は年の瀬も迫った12月23日、バイルー首相率いる新内閣のメンバーを発表した。2017年以降のマクロン政権下の閣僚経験者が多く、「左右各派に広く開かれた政府」、という首相の約束は反映されない内閣となった。左派や極右の国民連合(RN)からは厳しい批判の声が上がった。
12月初めのバルニエ前内閣不信任決議を受けて、マクロン大統領は13日に自らの陣営の中道MoDemのバイルー党首を首相に任命。新首相は当初、「人々を分断させる代わりに集結させるべき」「和睦が必要」と発言し、16日以降、RNと「服従しないフランス」党(LFI)以外の各党の代表を首相府に呼んで組閣のための協議を行なった。だが協議は難航した模様で、閣僚発表はクリスマス直前にずれ込んだ。
蓋を開けてみると、ルタイヨー内相、ルコルニュ軍事相、バロ外相/欧州相、ダチ文化相ら、全35人の閣僚のうち19人がバルニエ内閣からの継続。さらに、残り16人のうちマクロン政権下の閣僚経験者が5人もいる(ダルマナン元内相が今回は法相に、ボルヌ元首相が教育・高等教育相、ド・モンシャラン元エネルギー転換相が会計担当相など)。共和党の閣僚は前内閣の10人から6人に減ったためか、共和党重鎮は政府への支持を保留にしたり、明確にしない姿勢が見受けられる。
バイルー首相は当初、社会党の政府参加を望んでいたが、社会党はバイルー首相との協議の際に、強行採決をせず、極右に依存しないなら内閣不信任案に投票しないという条件を出したが合意に至らず、社会党が要求する年金改革の停止も受け入れらなかったようだ。しかも、共和党重鎮のベルトラン氏が、RNに反対されたために首相は自分に法相の椅子を提示しなかったと暴露。フォール社会党第一書記は、新政府が極右の監視下にあると強く批判した。
結局、社会党系で入閣したのはオランド社会党政権のヴァルス元首相が海外領土相、フランソワ・レブサメン元労働相が国土整備・地方分権担当相に就任したが、2人とも数年前から社会党を離れてマクロン支持に回っているため、社会党の参加にはならない。仏預金供託公庫(ケース・デ・デポ)の頭取から経済相に抜擢されたエリック・ロンバール氏は社会民主系左派で、社会党政権のサパン経済相の顧問を務めたことがあるが数年来のマクロン支持者だ。
左派は、新政府は「(閣僚の)リサイクル」「挑発」などと反発。組閣までは不信任案に訴えないとしていた社会党も、バイルー首相の姿勢方針演説によっては不信任案に投票するとし、LFIは「この政府は不信任案の未来しかない」と、マクロン失墜は必至とした。RNも、(総選挙結果に比べ)正当性に欠ける政府と批判している。新首相が施政方針演説を行う1月14日にも一波乱ありそうだ。
国会議員と地方自治体の首長の兼任禁止の見直しの意向や、大型サイクロンで甚大な被害を受けた仏海外県マヨットに駆けつけるよりもポー市議会への出席を優先したことなどで、早くもバイルー首相への批判が上がっている。国民議会は来年度予算法案不在のため従来の税金徴収などを継続する特別法案を16日に満場一致で採択し、来年度予算案が成立していない異常事態に応急手当を施したが、内閣不信任案のリスクがつきまとう不安定な政治情勢は変わっておらず、今後も不安定な政権運営が予想される。(し)