核兵器を保有する9ヵ国のうちのひとつで、電力は原発が6.5割を占めるフランス(原子炉は56基あり、米国に次ぐ2番目)。そのような核大国にありながら広島と長崎の原爆の惨事について語り、核兵器廃絶の呼びかけを続ける人たちがいる。
パリの南西240kmほどに位置するトゥールの街の一角で、核兵器や原発について考える4日間のイベントが開催された。「核兵器廃絶ー警戒の家 Abolitions des armes nucléaires-Maison de Vigilance」、「脱原発 Sortir du nucléaire 」、「平和運動 Mouvement de la Paix」、「よそものフランス」などの市民団体の共催で、核兵器のもたらす災いを人々に知ってもらうことと、核兵器禁止条約*にフランスが署名するよう呼びかけることを目的とする。
*核兵器禁止条約
Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons -TPNW:2017年7月に国連総会で採択された国際条約。核兵器の製造、保有、使用、実験などを禁止するもので、2020年10月に発効に必要な50か国の批准に達し2021年1月22日に発効。法的拘束力はない。(仏語ではTIAN : Traité sur l’interdiction des armes nucléaires)
4日間のイベントは広島原爆記念日の8月6日の午前11時、犠牲者追悼から始まった。40人ほどが参加し、広島で被爆し12歳で亡くなった佐々木禎子さんの詩と、やはり広島で12歳の時に被曝した橋爪文(はしずめ・ぶん)さんの詩『少年』の朗読、ダンスを交えたパフォーマンス、国民議会議員のシャルル・フルニエさん(ヨーロッパ・エコロジー党 / NFP)、県議会議員、市長補佐らもスピーチ。ロワール川のほとりにスタンドを設営し、興味ある人たちに活動を説明したり、河岸でのアートパフォーマンスなども行った。
「世界で核兵器を保有する9ヵ国のうち、今、その数ヵ国がまさにそれを使わんばかりの状況で核戦争のリスクが迫っていると感じます。〈核抑止力〉はまったく安全ではないのです。ウクライナでは毎日原発も脅かされています。民間利用といわれる原発からも脱しなければいけません」「イスラエルとガザの紛争を見ても、今こそ〈平和〉という言葉に、強い力を与えなければいけない」とフルニエ議員。
トゥール市では2020年、トゥール市初のエコロジー党の市長が選出された。そのエマニュエル・ドニ市長は2018年にICANが始めた「自治体の呼びかけ Appel des Villes」に署名。核兵器の標的となるのは町だが、町の住民は核兵器の脅威におびやかされずに生きる権利を有するとして、市町、自治体レベルから核兵器廃絶へと世論や政府の考えを変えていこうという動きだ。
署名後は、外務大臣、その町の選挙区の議員らにその旨を通知し、メディアに対しても声明を発するなどして情報を拡散する。住民に対しても展覧会を企画するなどして、核兵器の脅威と、核兵器廃絶のための国際的な動きを知ってもらう活動をしていくもので、広島と長崎両市長が設立した「世界首長会議」と連携している。
参加者らは、7日はトゥール近くのPout-Boulet駅(核廃棄物が運ばれる際に通る駅)、シノン原発、フランス原子力庁(CEA)などを1日かけて自転車で回り、それぞれの施設の前で核兵器廃絶の横断幕を掲げるなどもした。10数人の市民は5日から断食を始めており、9日長崎での被害者の追悼セレモニーの後、市役所にて断食を終え4日間の活動を終える。バカンス真っ最中の8月で参加者は多くはないが、確固としたネットワークが構築されているのを感じた。
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