アタル首相は4月6日、複数の仏紙のインタビューに答え、診察・検査予約のキャンセル料徴収、休日夜間当番医への手当など、医療過疎問題への対策を明らかにした。
医師がいない、少ないといったことが数年前から問題になっているなか、アタル首相は1月末の施政方針演説で、外国人医師の採用促進、一般開業医の夜間・週末当番の義務化導入、診察予約のキャンセル料の徴収などの対策を打ち出していた。
今回、首相が明らかにしたのは、患者が24時間以内に予約をキャンセルしたり、無連絡で来なかった場合は、5€を医師に支払う制度。現在、年間2700万件の予約が無駄になっているとされ、キャンセル料を徴収することで年間1500万~2000万件の予約を実質的に増やすことができると政府は試算する。徴収は来年1月から医療予約サイトなどに設定し、医師の利用を呼びかける。しかし、医師のなかには、患者に対する医療ケアの制限になるほか、医師にとっては徴収の手間がかかると反対意見もある。
さらに首相は、夜間・週末当番を従来より広いゾーンで引き受けたり、当番回数を増やしたりする一般開業医に特別手当を支給する方針も示し、医師が反対する当番義務化は先送りに。また、医師の絶対数を増やすために、門戸の狭い医学部2年生への進級試験を緩和して、2年生定員数を現在の1万人から2025年は1.2万人、27年には1.6万人に増やす意向も明らかにした。
住民10万人に医師40人以下の県が4割。
医療過疎は数年前から社会問題になっている。4割の県で住民10万人に対し医師(一般医、専門医含む)40人以下と少なく、600万人の国民は、医師不足のため登録が義務である「かかりつけ医」がいない。医師会によると、全国の5%が夜間・週末医療を保障されていないという。
また、消費者保護団体「UFC-Que choisir」は昨年11月、医療へのアクセス格差に対して政府が対策を講じていないと国務院に提訴した。同団体の調査によると、車で30分以内にいる一般医、45分以内にいる専門医の数が全国平均の60%を下回る場合を「医療過疎」と仮定すると、国民の19.3%が眼科、女性の24.8%が産婦人科、子供の28.9%が小児科医の過疎地域に住むと結論づけた。自由料金でなく、健康保険の定める料金を適用する医師に限れば、その割合はそれぞれ59.3%、69.6%、約50%になる。一般開業医については2.6%と過疎度が低いが、一般開業医へのアンケートによると、彼らの51.5%がすでに患者を多く抱えている、定年が近いなどの理由でさらなるかかりつけ医引き受けは無理とする。眼科医の予約待ちは全国平均で65日という結果が出たという。
こうした医師不足を緩和するため、政府は以前から看護師、助産婦、歯科医らが、医師診察が必要かどうか見極めるための最初の診療をする案を提示していた。また、かかりつけ医を通さない(本来は通すことが義務で、通さないと健康保険の払戻し率が低下する)看護師、理学療法士へのアクセスはすでに13県で試験導入されているが、これを全専門医に拡大することも検討している。これは専門医の予約待ちリストを長くするだけだとして一般医の組合は反対している。
7日付ル・モンド紙には、車で地方から100km、200kmの道のりをパリ首都圏の専門医の診察や超音波・MRI検査、各種検査などの医療目的で来る人をルポする記事が掲載されていた。地方の中規模都市でもMRIが3ヵ月待ち、小さな市では専門医が1年~1.5年待ちが当たり前で、パリ首都圏や地方の大都市に遠くから泊りがけで来る患者のケースはよくあるそうだ。高齢化が進んで医療需要が今後ますます高まることを考えると、医療過疎問題、医師不足は緊急の問題だろう。(し)