2月半ばに締結された仏ウクライナ間の安全保障協定が、激しいやり取りのすえ3月12日にフランスの国民議会で、翌13日には上院で承認された。マクロン大統領の「ウクライナ派兵」発言も相まって、フランスのウクライナ支援のあり方に議論が沸騰している。
この協定は2月16日にパリを訪れたウクライナのゼレンスキー大統領がマクロン大統領と交わしたもので、今年度30億€規模の武器供与、仏軍によるウクライナ兵士の訓練、国境監視支援、同国軍事産業増強への支援を含み、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)および欧州連合(EU)加盟へのフランスの後援も明記されている。同様の協定は英独なども交わしているが、マクロン大統領が26日、ウクライナ支援のためのEU首脳会議で「欧米諸国のウクライナ派兵の可能性は除外されていない」と発言して同盟国をはじめ国内外から批判されたことを受け、政府は同協定について国会で議論し採決をとることにした。
3月12日、国民議会では賛成372票、反対99票、棄権101で承認した。アタル首相は、協定に反対することはこれまでのフランスのウクライナ支援の方針に反することになり、棄権すれば逃げることになると訴えた。極右の国民連合(RN)のルペン氏は、政府のやり方はマクロン支持かプーチン支持かの二者択一を迫るもので、欧州議会選挙で高スコアが期待されるRNを追い落とすための策略だと非難して投票を棄権した。左派の「服従しないフランス党(LFI)」はRNと同様、ウクライナのEUとNATO加盟は受け入れられないとし、対ロシア戦争へのエスカレートは避けるべきと反対票を投じた。与党連合と右派共和党、左派では社会党と環境保護派が賛成し、LFIと共産党は反対、RNは棄権した。13日の上院では、多数派の共和党の賛成多数で、293票対22票で承認された。
外国のメディアなどでは、マクロン氏の派兵への言及は、伝統的にロシアや旧ソ連との関係が深い共産党やLFI、ロシアから資金援助を受けたとの疑惑があるRNを6月の欧州議会選挙で追い落とすための戦略と見る向きもある。マクロン氏は戦争初期には「ロシアを侮辱しないように」などと発言してプーチンとの対話と外交的解決策を主張して他国から批判を浴びたが、昨年半ば頃からウクライナのNATO、EU早期加盟を訴えるなどロシアに対抗する姿勢を明確に見せるようになった。
マクロン氏は14日のTVインタビューでも、同盟国によるウクライナ派兵の可能性を撤回しなかった。「ロシアが勝てば、フランス人の生活も変わる」「フランス人の安全保障はウクライナ情勢で決まる」「ロシアに勝たせてはならない」などと発言した。2月末のCSAによる世論調査では76%の国民がフランス人の派兵に反対している。軍事筋では仏兵の派遣は地雷撤去、ウクライナ兵訓練、兵器メンテのためであり、戦闘のためではないと言われているが、国民は派兵の不安を現実のものとして感じているようだ。
いずれにしても、戦争の長期化、ウクライナの反転攻勢の弱さ、プーチンの核兵器使用の言及などに加え、米大統領選の行方によっては米国のウクライナ武器支援が鈍る可能性もあり、ウクライナ情勢はヨーロッパ諸国にとって厳しいものになりつつある。各国は否定しているが、派兵の可能性もまったくの仮説とは言えない側面がありそうだ。(し)