リモージュの磁器は、一時は王家の支援があったものの、王立製陶所セーヴルに比べて民間の力で発展してきたためか、フランス人にはより親しみがあるように思える。小規模ながら伝統的な製造法を守る無形文化財企業 (EPV)、アトリエ・アルキエを訪ねてみた。
街はずれにある石造りの堂々たるファサードを持つ同社の建物は、1910年築のなめし工場。大きな改修工事を施して2年前に移ってきた。アルキエ社はグレゴリー・ローゼンブラット社長の義父ピエール・アルキエ氏がいくつかの磁器アトリエを統合して1996年に創業した。
入口を入ると明るいブティック兼ショールームがあり、創業時からつくっている精巧な小物入れのほか、伝統的絵柄やコンテンポラリーな食器、コバルトを釉薬にした、18世紀からつくられてきた濃いブルーの食器 「ブルー・ド・フール (bleu de four)」、薬壺や椅子の座面などが並んでいる。
アルキエ社のショールーム兼ブティック。(左)ブルー・ド・フール(右)アルキエ社の薬入れは有名で、大学の医学部を卒業する人にプレゼントするために名前を入れて焼くなどオーダーメイドが多い。
鉄骨構造のアトリエ部分に入るとまず目につくのが壁面全体に施されたカラフルなストリートアートだ。現代アーティストとのコラボレーションを重視する創作アトリエの姿勢を象徴するものだという。
製造工程も丁寧に見せてもらった。石膏型はデッサンから起こして手作り。カオリン、長石、珪石を水で混ぜたゆるい粘土状の磁土を、型に流し込んで成型し、取っ手や注ぎ口などがあるものは付けてから乾かす。
980℃で12時間程度素焼きし、光沢のある表面にするものは釉薬にさっと通してから1400℃のガス窯で24時間本焼きする。この釉薬は磁土と同じ原料を混ぜた白っぽい液だが、ブルー・ド・フールの場合はコバルト顔料を入れたものになる。
その後、絵付をしてから顔料の種類によって800~1200℃で焼く。この絵付は、手描きもあれば(この道35年の職人さんが極小のティーセットに筆で絵付をしていた。下の写真)、絵や模様をフィルム状にしたもの(クロモリトグラフィー)を器に張り付けて写しとる方法もある。
また成型方法は、刃のようなもので型に磁土を塗りつけて成形する方法、粉状の磁土を吹き付けるプレス成形(機械で大量生産可能)もあるが、アルキエでは大量生産はしないので、手作業の流し込みのみだ。
リモージュの磁器企業は米国向けを中心にした輸出が多い。アルキエでも半分は日本も含めた輸出だ。また、製品の半分は美術館・博物館、レストランなどからの注文生産。
2017年にはリモージュ市のプロジェクト募集に2人のアーティストの案が採用され、街の歴史的建造物の欠けた部分を磁器で修復するプロジェクトの制作面がアルキエに任された。水盤、手すり柱、雨どいなど22点がブルー・ド・フールで修復された。日本の金継ぎから着想された 「青継ぎ」だ。
バリスタとのコラボでコーヒーの風味をよりよく味わえる形のカップを作るなど、「とくに外国のデザイナーと仕事をしたい。アーティストとコラボして、普段、磁器を使ってないところに使うことを提案したい」と、社員17人の小企業ながら、グレゴリーさんは磁器の新たな可能性を探る。日本のシェフともコラボレーションしたいそうだ。(し)
工房見学!
Porcelaine Arquié
Adresse : 230 avenue Baudin , 87000 Limoges , FranceTEL : 05 55 34 40 52
URL : https://www.ateliersarquie.com
工房見学は5€(要予約)。