5月26日、環境保護団体がパリで開催されたトタル・エネルジーの株主総会の会場への入場を妨害しようとした。治安部隊の出動によりまもなく解除され総会は滞りなく行われたが、仏最大のエネルギー企業であるトタルに対する抗議運動は近年ますます活発になっている。
この日は早朝からグリーンピース、Attac、ANV-COP21など環境保護団体の活動家数十人が入口を封鎖しようとしたが、治安部隊が催涙ガスをまいて活動家らを排除。しかし、数百人の活動家が近くの通りに集まり、トタルに対して「化石燃料プロジェクトはもういらない」「トタルは破壊する」などのプラカードを掲げてトタルの活動に抗議した。目立った衝突はなく、6人が拘束。ボルヌ首相は「活動家は警告を発する役割がある」と、抗議運動寄りの態度を表明。パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相も、トタルは再生可能エネルギーへの投資を加速すべきと発言した。
総会ではトタルの企業戦略は88.76%の賛成票で承認された。経営側は投資の3分の1を低炭素エネルギー開発に充て、2030年までに再生エネルギーの電力生産を100GWにすると表明。再生エネへの投資は2020年に20億€、22年は40億€、23年は全投資の半分にあたる50億€にするとした。
その一方でプヤネ会長は、世界の石油需要は増加しており、石油部門を減らすことはできないため、今後10年間は新規プロジェクトも含めて石油生産を維持するとした。気候問題に敏感な一部の株主が温室効果ガスの削減目標を2015年気候会議のパリ協定に基づく数値(2030年に1990年比でマイナス40%)に合わせるべきという動議は30%の得票で却下。経営側はトタル、株主、顧客の利益に反すると反対した。
抗議活動の背景
トタルはアラブ首長国連邦、イラク、パプアニューギニア、ウガンダなどに石油・天然ガスの新プロジェクトを計画しており、ウガンダの油田開発計画では国立公園内の130ヵ所の掘削とタンザニアの港までの、全長1400kmのパイプライン「Eacop」建設を計画。パイプライン全体が50℃に維持される。6つのONGが生物多様性破壊と10万人の強制移住に反対してパリの裁判所に訴えたが、同裁判所は2月末に訴えを却下した。
同様にNGOおよびパリを含む16の地方公共団体がトタルの化石燃料開発の新規計画の一時停止を求める訴えを提出し、5月31日にその受理の是非について審理があった(決定は7月6日)。こうした提訴の背景には、2017年3月27日法により、5000人以上の仏企業は外国の子会社の事業であっても、人権や環境に損害を与えるプロジェクトへの「警戒」義務を負うようになったこともある。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と国際エネルギー機関は化石燃料の新規プロジェクトを停止するよう推奨している。トタルはウクライナ戦争の影響によるエネルギー価格高騰により2022年に191億€という未曾有の収益を上げたこともあり、気候対策への消極的な取り組み姿勢に批判が高まっている。
政治学院(シアンス・ポ)、高等商業学校(HEC)、エコール・ポリテクニークなどエリート校の学生がEacop計画への反対キャンペーンを展開しているほか、環境問題に敏感な学生たちが就職先としてトタルを避ける傾向にあるという。現在の国民生活や経済に欠かせない石油やガスではあるが、フランスを代表する大企業トタルには未来を見越したエネルギー移行に向けて積極的な態度を表明してほしいということだろう。(し)
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