ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地
Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles
昨年、英国映画協会が発表する「史上最高の映画1位」に選ばれた話題の名作が、フランスで劇場公開中だ。ベルギー人シャンタル・アケルマン監督が、25歳の時に撮った代表作(1976年公開)である。
未亡人のジャンヌは、料理をしたり掃除をしたり、たまに近所に買い物に行って1日を過ごす。息子が帰宅すれば一緒に食事をするが、会話が弾むわけではない。そんな主婦の単調な日常を、固定カメラが淡々と眺める。しかし、彼女のルーティーンの中には、家で男性客を取ることも含まれる。今回は2K修復版版で、地味で平凡に見える主婦ディエルマンの、実は美しい栗色の髪、何気に派手なピンクのパンプスまで鮮やかに蘇る。
フェミニストの旗手だった主演のデルフィーヌ・セイリグは、家事という女性の日常を正面から扱った初の映画である本作の革新性を、当時からインタビューで力説していた。主演女優が映画の最大の理解者だったのは、この映画の幸運だったろう。
上映時間3時間21分。初めてアケルマン作品に触れる人は、長回しが続く撮影方法に驚くかもしれない。監督はことあるごとに、「流れる時間を感じさせたい」と語っていたが、まさに観客は主人公と同じ呼吸で、弛緩しつつも同時に濃密な3日間を体感してゆく。
翻って現在の映画を巡る環境、例えばアカデミー賞が息もつかせぬ編集の映画に作品賞を授与したり、カンヌ映画祭がショート動画を増産するTikTokとパートナー関係を結んだことを思うと、アケルマン的な映像感覚はますます隔世の感もある。だからこそ制作から48年、本作はまた新たな批評的役割も担って、私たちの前に立ち現れたように見える。フランスでは来年アケルマンの回顧上映が開催予定だ。(瑞)
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