憲法評議会は4月14日、年金改革法の主な条項を合憲と判断した。マクロン大統領は同日夜、違憲になった部分を除いた同法を早々と発布し、15日の官報に掲載された。だが、同法の眼目である法定定年年齢の62歳から64歳引上げに反対する左派や労組は抗議運動を継続する構えだ。
3月16日に強行採択で成立した同法案については、左派や極右が提出した同評議会への訴えの行方に注目が集まっていた。年金改革法案の合憲性を問う訴えは、ボルヌ首相、国民議会の左派連合(Nupes)、極右の国民連合(RN)、上院の左派議員(社会党、環境保護派、共産党)が提出していた。
「合憲」と「違憲」の要素
首相の訴えは法案の合憲性のお墨付きをとるための形式的なものだが、NupesやRNの訴えは、政府が年金改革を通常の法案でなく社会保障修正予算法案として提出し、憲法第47-1条を適用して国会審議を50日以内に制限したのは法案審議プロセスの乱用にあたるという内容で、法案成立の無効性を主張するもの。
修正予算法案は本来、予算法案成立後に緊急の必要に応じて修正するものだが、政府は今回、強行採択(憲法第49-3条による)が予算法案以外では同一会期に1度しか使えないためと、審議短縮のために予算法案として提出。国民議会では一度も採決されず、上院でも法案一括採決の規定を利用するなど、通常の法案審議の流れとはかけ離れたものだった。
この点から、国会審議の原則が尊重されなかったとして法案全体が違憲となる可能性を挙げる憲法学者の意見も一部にはあり、左派や労組はこの可能性に期待を抱いていた。
ところが、憲法評議会は同法案の国会審議が通常の方法で行われなかったことを認めながらも、審議方法自体は違憲ではないとして、この訴えを退けた。また評議会は、シニア雇用促進のための「シニア指標」(シニア雇用状況の公表の義務化)、シニア向け無期雇用契約など本来は予算法に含まれるべきでない6項目については違憲とした。
続く抗議運動と議会でのアクション
Nupesのメランション氏は「闘いは続き、力を結集しなければならない」とし、ルペンRN党首も「年金改革の政治的行方は閉ざされていない」と発言。フォール社会党第1書記は大統領の法施行は国民軽視と挑発と非難した。評議会の決定を受け、全国で抗議デモが行われ、パリ市庁舎前には約3000人が結集。治安部隊との衝突もあり、112人が逮捕された。レンヌでは警察署や修道院だった建物の扉が放火されるなど、各地で破壊行為も発生した。
憲法評議会は同日、定年を62歳以下にすることへの賛否を問う、左派議員による「共同発議国民投票(RIP)」申請を却下した。申請が提出された3月20日当時はまだ法律が施行されておらず、定年は62歳だったため国民投票にかける意味がないというのが理由だ。左派は13日に定年62歳以下に加え、資産への税収入を年金の財源に充てることについてのRIP申請を新たに提出。憲法評議会は5月3日に評定を下す予定だが、たとえ受諾されたとしても実施への道のりは長い。
全労組も「これで終わりではない」と、5月1日のデモへの参加を広く呼びかけた。パリの清掃人労組がストの再開を決定したほか、20日にはエネルギー部門、港湾のストも予定されており、今後も断続的にストやデモは続くのは必至だ。(し)