3月25日の仏中西部サント・ソリーヌの農業用大型貯水池の建設に反対する環境保護派のデモで重体2人を含む多数の負傷者が出たことで、治安部隊の対応に行き過ぎがあったとの批判が上がっている。ダルマナン内相は5日にこの問題で国会議員から質問を受け、治安態勢は妥当なものだったと主張した。
デモには、貯水池の建設は効率重視の大規模農業が大量の水を独占するものと反対する環境保護団体、小規模農家団体、反資本主義活動家、左派政党など約6000人が参加(主催者発表では2~3万人)。内務省は過激分子が1000人弱いるとして約3200人の治安部隊を動員して対応。デモ隊の一部による火炎瓶、ロケット花火、投石などに対し、治安部隊は催涙弾5015発、手榴弾120発、ゴム弾銃81発を使った。デモ側によると、重傷40人を含む200人が負傷し(内務省発表は重傷2人を含む17人負傷)、うち1人が頭蓋骨・背骨損傷などで意識不明の重体、もう1人も脳内出血などで重体、ほかに2人が足などに重傷を負った。治安部隊側は47人の負傷。
被害者の家族が殺人未遂罪などで告訴し、上記4件の重傷・重体のケースについて捜査が開始されている。人権擁護官も30日、重体2件について独自の調査を行うと発表した。今回のデモでは、市民の権利に対する治安部隊の行動を観察する市民オブザーバーが22人現場に入り、その報告が報道されたことから、政界からも強硬なデモ取り締まりに批判が上がった。また、治安部隊側の負傷者が迅速にケアされたのに比べ、デモ側の重傷者の搬送が遅れたことも指摘された。通報者と救急医療隊(SAMU)の電話のやり取りのなかで、救急隊員が負傷者に近づくのを治安当局から禁じられたというSAMUの発言が報道され、問題となった。当局は、救急隊員の身の安全が確保されない場合はアクセスを禁止することもあると弁明している。
ダルマナン内相は5日、上下院の法制委員会の質問に計4時間にわたって答え、年金改革デモも含めて1月以降41件の治安部隊員に対する国家警察総監の調査が進行中として、隊員の行き過ぎの取り締まりを実施していると弁明。しかし、治安部隊は暴力的な「極左分子」に対抗する必要がある、と治安部隊の対応を擁護した。内相は28日、ノートルダム・デ・ランド空港建設用地の不法占拠運動から生まれた環境保護団体「Les Soulèvements de la Terre(大地の反乱)」に対し、続いて2日には警察・司法の抑圧への対抗を掲げる左翼グループ「Défense collective(集団防衛)」に対しても解散手続きを始めるとし、左翼活動家への取り締まりを強めている。
年金改革デモへの暴力的対応や若者を脅迫するような録音で問題になったバイク警察隊「BRAV-M」の解散要求に26万の署名が集まったが、ダルマナン内相は「左翼政党による政治的署名運動」とはねつけ、国会も5日に解散手続きの検討を見送った。だが、警察や治安部隊の対応の行き過ぎに非難の声も多く、今後の捜査の行方に注目したい。(し)
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