『Thomas Demand Le bégaiement de l’histoire 』
建物入口から会場にたどり着くまでの壁に、満開の桜の写真の壁紙がある。ところがよく見ると、花芯にはめしべもおしべもなく、どこかヘンだ。ドイツの現代美術家、トーマス・デマンド(1964−)の展覧会はここから始まっている。桜を紙で作り、写真に撮った「花見」という作品だ。インスピレーションの源は、清少納言の「枕草子」第260段にある「2月に満開の桜を見て、梅ならわかるが、と思ってよく見たら造花だった」という記述だ。千年以上も前の随筆なのに、デマンドの作品を見て書いたかと思うほど、彼の作品にぴったり合った表現だ。
デマンドは歴史に残る出来事を撮った報道写真などを元にして、その場面を色紙と厚紙で実物大の立体模型に再現し、それを写真に撮って作品とする。模型は撮影後、破壊する。写真に残された時、出来事がもう存在していないように、紙の模型を消滅させ、写真だけが残るのだ。精巧にできているため、普通の写真かと見間違うが、家具に汚れはなく、妙にクリーンな異次元の空間だ。人物も動物もおらず、SFの世界のような無限の静けさがある。
東日本大震災で破損した福島原発管理センター内部は、センターの従業員がスマホで撮った写真を元に制作したものだ。モネの睡蓮の池を再現した作品では、よく見ると水面に睡蓮の葉が貼ってあるのがわかる。日常のさりげない美をとらえた小作品の中では、浴槽の端に置かれたレモン色の石鹸が、ミニマリスト的な絵のように美しい。(羽)5/28まで。
Jeu de Paume テュイルリー公園内
Adresse : 1 place de la Concorde, 75001 Paris , FranceTEL : 01 47 03 12 50
アクセス : Concordes
URL : https://jeudepaume.org
月休、火11h-21h/水〜日11h-19h 12€/9€