医薬品不足の解決には時間がかかりそう。
フランス政府は2月3日、先月から問題になっている医薬品不足への対策を策定するための委員会を発足した。対策のロードマップは6月に発表される予定だ。
秋からのインフルエンザ、細気管支炎(bronchiolite)の流行により、解熱・鎮痛剤パラセタモールや小児用アモキシシリン(抗生物質)がとくに1月から薬局で入手しにくくなっている事態が問題になっていた。
仏メディアによると、その他にも各種の抗感染症薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬や、心血管疾患、糖尿病などの薬も入手しにくくなっており、病院でも医薬品の確保が十分できず、代替薬を使ったり、可能なものは院内薬局で調合したり、治療をあきらめたりする事態も発生しているという。すでに2008年に主要治療薬のうち43種類が不足していたのが、18年には871種類、22年には3500種類に増えたと報じられる。
コロナ禍による需要増とサプライチェーン遮断により、薬の有効成分の多くを生産する中国とインドからの供給が滞ったうえ、ウクライナ戦争により同国が多く生産する薬包装材の不足が追い打ちをかけた。様々な患者団体をまとめる「アソ・サンテ」は、何年も前から患者の45%が薬不足で治療を先延ばしにしたり、治療法を変えたり、あきらめたりしていると警鐘を鳴らす。製薬業界は主要医薬品の2ヵ月分ストックを21年9月から義務づけられているが、アソ・サンテはこれを10年間分のストックを義務付けるよううにするべきと要求しているほどだ。
こうした状況を受けて、政府は医薬品不足対策を検討する委員会を3日に発足し、①冬の感染症への対応、②薬不足の緊急事態対応策、③特に患者にとって不足が重大で代替薬がない300の医薬品リストの作成、の3点について6月にロードマップを発表する。また、政府は同日、国内製造の促進のため、数種類の主要なジェネリック薬の価格を上げるとした。
マクロン大統領はコロナ禍最中の20年6月に、不足医薬品の生産国内回帰を国が支援する方針を打ち出した。医薬品バリューチェーンの強化策として106のプロジェクトが承認されたが、主要有効成分の国内回帰プロジェクトはパラセタモール製造などわずか18件。インフレ、エネルギー価格高騰により生産コストが上昇したうえに、社会保障予算により制限される薬の値段が低すぎて国内生産は採算が取れないと製薬業界は嘆く。そうでなくとも、一般的に医薬品製造を商業ベースに載せるのには3~4年かかるといわれ、促進策の効果はすぐには表れてこないようだ。
EU全体でも主要成分の80%は域外で製造され、域内で販売される薬の40%は域外から輸入しており、英、伊、独、スペインなどでも薬不足は顕著だ。EU諸国では薬の販売価格が安く、ルーマニアやブルガリアは自国で製造したジェネリック医薬品をEU内で売りたがらないという事情もあるらしい。EU委員会と欧州医薬品庁は、供給危機状態にある薬のリスト化、ストック確認、域内生産の促進などの対策を3月に発表する予定だ。
ブロン仏保健相は3日、アモキシシリンとパラセタモールの1ヵ月分を2週間以内に供給できるようにすると発言した。その2種の薬についてはこの冬を越せるだろうが、長期的な医薬品確保にはフランスもEU諸国も頭を悩ませている。(し)