絵本作家 デルフィーヌ・ボーヴォワさん
ごく幼い頃から性別による色眼鏡で見られてしまう子どもたちに向かって「お人形さんやらスーパーヒーローになる必要はない。君は君のままでいい」と説くのは、小学校教員で絵本作家のデルフィーヌ・ボーヴォワさん。小さな女の子に押しつけられるステレオタイプを壊そうと、教職のかたわら、『私たちはお人形じゃない』という絵本を2013年に出版した。
「女の子にまつわる偏見が多いからと、まずはこの作品を作ったのですが、男の子も社会から押しつけられる役割に閉じ込められているのに変わりはないということで、続いて、『ぼくたちはスーパーヒーローじゃない』を作ることになりました」。ところが、そのままだと女の子は1冊目、男の子は2冊目だけを読むことになりがち。そこで、両者の視点を生かした新作絵本を2015年に発表した。
「読者の対象年齢は3歳から7歳。父権が強く性差別がまかり通っている社会なので、小さな頃から自分なりにものごとをとらえる習慣をつけることが大切だと考えています」とボーヴォワさん。日本に比べると男女平等が進んでいる印象のフランスでも(*)、性にまつわるステレオタイプはまだまだ根強く残っているのだ。この作品は、読み聞かせをする親たちにとっても、気づきのきっかけになることがあるという。女の子だからといってピンクの服を揃えなくてもいいし、男の子がしくしく泣いているからといって必要以上に心配しなくていい。切り絵をちりばめたカラフルなページには、ジョルジュ・サンドやシモーヌ・ド・ボーヴォワールなどフェミニストたちのポートレイトがちりばめられ、読者の知的好奇心を掻きたてる。小さいけれど、すみずみまでよく考えて作ってある。類書がほとんどないこともあり、教材として使われることもあるという。
出版から5年経った現在、この絵本は『ちいさなフェミニスト宣言 女の子らしさ、男の子らしさのその先へ』のタイトルで、日本の書店に並んでいる。翻訳出版の話を聞いた時、ボーヴォワさんは大喜びした。「ずっと前から、谷口ジローの『遥かな町へ』や、手塚治虫の『奇子(あやこ)』などの漫画が大好きだったこともあって、日本はいつか行ってみたい国のひとつ。学校では袖がじゃまになるから無理ですが、家ではアレンジした着物も楽しんでるんです」とにっこり。「日本には全然詳しくない」とおっしゃるわりに、蚤の市で見つけた「KOKESHI」、学校で子どもたちに教えることもある「ORIGAMI」など、その生活には日本文化がしっかり取り込まれている様子。今は日本の陶芸に興味津々なのだと目を輝かす。
最後に、野暮は承知で日本人女性についてのイメージを聞いてみた。「漫画や映画の中で描かれている女性像しか知らないので、どうしてもかたよったイメージになっていると思います。ただ、これまたラジオ番組を通しての印象に過ぎませんが、日本でも世界の例にならってフェミニズムが盛り上がっているとのこと。実際に日本に行って、都市や地方に暮らすさまざまな女性たちが本当のところ何を求めているのかをぜひとも聞いてみたいです。日本の#me tooにはどんな特徴があるのかにも触れてみたい。それから、フランス女性がどう見られているのかも気になりますね」。彼女の目を通した日本の話を聞かせてもらうのが今から楽しみだ。(さ)
『ちいさなフェミニスト宣言 女の子らしさ、男の子らしさのその先へ』
デルフィーヌ・ボーヴォワ著 新行内美和・訳 (現代書館)
“Ni poupées, ni super-héros, on est des super-égaux!” Delphine Beauvois, Claire Cantais
*世界経済フォーラム(WEF)が昨年末に発表した「ジェンダー・ギャップ指数」によると、調査対象153ヵ国中、フランスは15位にランキングされている。日本は121位で、先進国では最下位。