リベラシオン紙8月20日付は、「観光:危機的な大群」の大見出しを掲げ、世界一の観光大国フランスで観光客の到来が様々な悪影響を地元にもたらしていると警鐘を鳴らした。交通渋滞、深夜まで騒ぐ観光客の騒音、家賃高騰、物価高……。パリでは観光客向けの2.5万~3万軒の短期賃貸で地元住民向けの長期賃貸が侵食されていると指摘している。
2018年の世界の国際観光客は約14億人。そのトップに立つフランスは史上最高の8700万人の外国人観光客を受け入れた。国内観光客も含めて全観光客の落とすお金は2015年で1600億ユーロ、観光業は国内総生産の7.2%を占め、127万人の雇用を生み出す重要な産業だ。しかし一方で、その弊害も近年メディアに取り上げられるようになった。ノルマンディーのエトルタでは散策者に植物が踏みつぶされ、断崖の脆弱化につながる土壌侵食が進んでいる。大型客船が寄港するマルセイユやコルシカでは観光客が出すゴミや騒音が問題に。年間100万人の観光客が押し寄せる南仏の村々では駐車場を有料にしたり、パリでは「公道で騒ぐと68ユーロの罰金」と公共広告で警告するなど、観光公害対策もとられ始めている。
フランスばかりではない。格安航空券、Airbnbなどの短期賃貸の普及などで国外観光にアクセスしやすくなったこともあり、観光客の流入が地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼし、交通渋滞、混雑、騒音、ゴミの増加、違法民泊などの観光公害を引き起こす現象「オーバーツーリズム(仏surtourisme)」は世界中の有名観光地で起きている。
ヴェネチアでは住民の日常生活に支障をきたすほどになり、年間3千万人の観光客の押し寄せる同市の人口は4年間で10万人から5.5万人に減った。バルセロナ、アムステルダム、ローマ、ドゥブロヴニク(クロアチア)などでも同様の問題が発生しており、環境汚染はエベレスト山やマチュ・ピチュ(ペルー)まで及ぶ。ドゥブロヴニクでは一日の観光客を2017年から4千人に制限し、アムステルダムでは船上ホテルの禁止、滞在税の値上げ、モンブランでは1日の登山客を214人に限定するなどの対策がとられるようになった。
マヨルカ島でレンタカーが壊されたり、各地で観光反対デモが起きるなど「反観光客」の動きもある。世界中の文化遺産や環境の保護のためにも、今後様々な規制は増えてくるだろうが、観光客自身も自分が引き起こす被害を認識して地元民に配慮する心がけが必要だろう。(し)