パスカルとジャンセニスム 〜 パリのポール・ロワイヤル図書館をたずねて。
パスカルのジャンセニズムへの傾倒は、ポール・ロワイヤル修道院に入った、文学に造詣の深い妹ジャクリーヌの影響が強かったという。この宗派は、人間は生まれつき罪に汚れており、神の恩寵の導きなしには善へ向かい得ないという、道徳的自律を重視するもので、当時のローマ教皇から異端とされた。
アウグスティヌス神学を信奉するヤンセン(オランダ人)の著作 『アウグスティヌス』(1640年)がサン・シラン神父によってフランスに伝わり、そのシランが精神的柱となったポール・ロワイヤル修道院が仏ジャンセニスムの拠点となった。
イエズス会と結びついた王の同派弾圧のなかで神学者アントワーヌ・アルノーが1656年にソルボンヌ大学を追放されたことで、彼とジャンセニスムを擁護するためにパスカルは筆名で翌年までに18通の手紙を書いて世論に訴えたのが後の『プロヴァンシアル』だ。パリの良家の若者がイエズス会とジャンセニスムの対比について問いかける体裁を取り、その実、イエズス会のモラル低下を痛烈に皮肉っている。王権とローマ教皇によるジャンセニスム弾圧は続き、ルイ14世は1710年に同修道院を閉鎖させた。
1625年に設立されたパリのポール・ロワイヤル修道院があったところ (建物の一部はコシャン病院敷地内に残る)に近いサン・ジャック通りにポール・ロワイヤル協会図書館がある。そこにはジャンセニスムと同修道院に関する書籍が保存されており、パスカルの 『プロヴァンシアル』や 『パンセ』の初版本のほか、パスカルが生前に人間の罪深さを常に思い起こすために身につけていた鎖の腕輪やデスマスクも所蔵されている。
【特集:ブレーズ・パスカル生誕400周年 クレルモンへパスカルを訪ねて。】
5回にわたって掲載。
〈その1〉パスカルの精神的故郷、クレルモン。記念イヤーイベント。
〈その2〉〜人間は考える葦である〜『パンセ』とは?
〈その3〉パスカルの発明:元祖・計算機「パスカリーヌ」と、公共交通。
〈その4〉パスカルの大気圧実験、ジョード広場とピュイドドームの山頂で。
〈その5〉パスカルとジャンセニスム
パリのポール・ロワイヤル図書館をたずねて。
Bibliothèque de la Société de Port-Royal
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