映画館再開初日(6/22)に真夜中の先行上映会を実施し、話題を集めた本作。当日は主演のエマニュエル・ドゥヴォスも会場に駆けつけ、「以前は映画館でポップコーンを食べる人に耐えられなかったけど、私が間違っていた」と挨拶。アメリカ映画の公開延期が続くなかで7月1日に公開され、パリの興行ランキングで他の新作を抑えて首位に付けたフランス映画だ。ポジティブな気分に包まれる人間ドラマで、この時期に見るにはうってつけだろう。
主役はふたり。驚異的な嗅覚を持つ香りの専門家アンヌ(エマニュエル・ドゥヴォス)と、雇われ運転手のギヨーム(グレゴリー・モンテル)。成功者であるアンヌは要求が多く、人を顎で使えるタイプ。これまでの運転手たちは、この横柄なパトロンから逃げ出したらしい。だが、ギヨームの場合はそうもいかない。離れて暮らす愛娘を迎えるためにもお金が必要だ。とはいえアンヌとギヨームの相性は悪くない。ギヨームはアンヌに臆せず意見ができる。それはかえって天才肌ゆえ孤立するアンヌの心を開く。関係は緩やかに変化する。
大人の男女が出会う話だが、恋愛ドラマにならないのがこの作品の良いところ。社会階層や価値観の異なるふたりが、雇い主と運転手の関係を超え、次第にポジティブなパートナー関係を構築する。人種問題は絡まないが、映画『グリーンブック』を少々思い出した。女性が仕事一筋の上司であり、男性の方が子どもとの関係に四苦八苦しているという設定も現代的。
監督はグレゴリー・マーニュ。2007年にフランス西部のラ・ロシェルからブラジルのサルヴァドールまでヨットで大西洋単独横断に挑戦、その様子を自らドキュメンタリーに仕立てたという異色の経歴の持ち主。本作は長編フィクションとしては第2作目となる。欲を言えば、香水の国フランスだけに、調香師の仕事の奥深さをさらに魅力的に見せる映像がもっと見たかったが、それは贅沢な願いか。演出がオーソドックスとはいえ完成度が高く、今後の活躍が楽しみな有望監督である。(瑞)