ガラーンとした大通りを、信号も車も気にせずのんびりと渡れるのが気持ちよかった。サン・マルタン運河の鴨が本当に同じ歩道を歩いていたし、ニュースではキツネや子ジカ、イノシシが町に出てきたことが報じられた。外出規制中はパリの中心でも朝夕の鳥のさえずりが響いて、どこか「楽園的」だった。不自由ではあるが、この平穏が続いてほしい、などと思っていた。
5月11日、パリでもロックダウンが解除されると、ちょっとした外出に書類が要らない、外にいる時間に制限がない、パトカーが通ってもビクッとしなくなった。近所ではレストランの人たちがテイクアウトを始めた。久しぶりの顔に「元気ですか?」「みなさんご無事?」「無事です!」と、挨拶にも力が入る。人が戻ってきたことが嬉しかった。運河では水辺に横たわったり、ピクニックをする人たちがいる。自分も座ってサンドイッチを食べてみる。それだけで「自由」を感じ、じんわりと喜びが体に広がる。
現実はまだまだ深刻だ。ウイルス感染は続き、それでも満員電車で出勤しないといけない人、コロナ禍で経済的に窮した人。渋滞で空気は再び汚染されるだろう。自由と「楽園的」環境は両立させなければならないのだ、と気づいたロックダウン解除初日であった。(六)