新型コロナウイルス感染防止のためのマスク着用に関して、フランス政府の姿勢が急転換した。4月3日にサロモン保健総局長が 「現在生産中の“代用マスク”着用を希望する国民に奨励する」と発言したのに続き、ヴェラン保健相も外出規制解除後には全国民にマスク着用を奨励する可能性があると発言。4月13日にはマクロン大統領が、外出規制解除後は、交通機関を利用する時などは常にマスクを着用するよう、国民全員にマスクを支給する意図を述べるに至った。
コロナ感染拡大当初から、仏政府はマスクは医療関係者と発症者のみに有益で、他の人には「全く無用」と主張してきた。しかし、中国疾病予防管理センター局長の「欧米の最大の過ちは国民がマスクをしないこと」との発言やアジア諸国が感染拡大を制限できたことなどから欧米諸国は態度を転換。3月末から中欧諸国がマスク着用を、4月初めには米当局も外出時に口鼻を覆うことを奨励。仏医学アカデミーも一般向けマスクの着用を義務づけるべきとの見解を示した。広範にテストが行われていない状況では、無症状の感染者が知らずに人にうつしている可能性は大きい。家庭用マスクはウイルス侵入は防げないが、飛沫感染のリスクを低下させ、鼻や口に手を触れることを防ぐ。これまでの政府の姿勢は、マスク不足で国民がパニックに陥らないためと保健省関係筋が認めたと仏紙も報じた。
FFP2(微粒子ろ過率94%以上)や医療用マスク(ウイルス単体の侵入は防止しない)は世界的な品不足で、85%を生産する中国で各国の争奪合戦となっている。仏政府は4日までに中国に20億枚近いマスクを注文し、輸送のために特別輸送機を手配。
ビュザン前保健相は1月26日、「感染が拡大しても国内に何千万枚という必要なマスクの備蓄がある」と断言した。ところが、政府は3月4日からマスク徴用を開始。4月1日までに中国から輸入できたのは2800万枚のみ。必要数が週4千万枚とすると医療機関ですらマスクが不足したのは当然だ。仏紙によると、2005年の鳥インフルエンザの教訓から、仏政府は07年に感染症の大流行に備えて必要な製品の買収・製造・輸入・備蓄・配布を担当する保健非常事態準備機関(EPRUS)を設立し、09年時点で医療・FFP2マスクを10億枚以上備蓄していた。ところが、2013年から政策転換し、16年にはEPRUSが公衆衛生庁に吸収され、マスクは世界市場に豊富にあるからと各施設・企業に管理が任せられた。だが今回、中国での感染拡大でマスクの供給がつい最近までストップ。この教訓は次の感染症流行に生かされるのだろうか?(し)