1月31日、英国は正式にEUを去った。ブリュッセルのEU本部から英国旗が降ろされ、欧州議会から英国議員が去る場面をテレビで見ると、EUの一つの時代が終わったという感がする。「EUから自由になった」と祝うEU離脱派のお祭り気分とは反対に、大多数の人は今後のEUや英国の行方、経済への影響が気にかかるところだ。
2016年6月の英国の国民投票から3年半。英国とEU首脳との間の合意が再三、英議会で否決され、EU離脱派のボリス・ジョンソン率いる保守党が12月の総選挙で勝利し、1月末のEU離脱が現実のものとなった。とはいえ、今後EUと英国の関係がどうなるかは決まっておらず、年末までの移行期間に両者の間で熾烈な駆け引きが行われる。英在住の290万人のEU市民と、EU在住の120万人の英市民の権利維持などでは合意が成りそうだが、当面EU関税区域に含まれるアイルランドの行方、とりわけ、自由貿易を求める英国と、その条件として環境、労働基準などを要求するEUとの交渉はシビアなものになりそうだ。
移行期間を延長しないと断言するジョンソン首相の姿勢から見ると、かなりハードなブレグジットになると予想される。漁業ではすでに影響が出始めている。ノルマンディー沖の英国領ガーンジー島当局は2月1日、領海への仏漁船の入域を拒否した。移行期間中はこれまでのルールが継続されるので一種の示威行為にすぎないが、仏漁業はEU共通水域の一部である英国の排他的経済水域(EEZ)で漁獲量の半分を上げており、来年から英国の水域に入れないとなると大きな打撃だ。また、税関が復活すれば、英仏海峡間のトラック輸送にも影響が出ることは必至だ。ITによる通関効率化が計画され、仏側では税関関連インフラに5千万€の投資を予定し、700人の税関員もすでに増員された。商品の通関に時間がかかれば、カレーだけで現在1日4000台の往来があるトラックの行列ができる。国立統計経済研究所(INSEE)の試算では、ハードブレグジットの場合は仏国内総生産は長期的に1.7%低下する。英国との交易が多いアイルランド、ベルギーほどではなくても、対英貿易に依存する企業の多い仏北部では懸念はさらに大きい。
今後注目すべきは、英国とEUの交渉により、どの程度のハードブレグジットになるかということだろう。その意味では、ブレグジットはまだ始まったばかりで、合意の如何によって仏経済界は適応すべきシナリオを書いていかざるを得ない。(し)