半田薫次郎さんは85歳。大阪で中学2年の時、終戦を迎えた。日本では広島大学の仏文科卒。36歳の時、68年パリ5月革命の頃、ソルボンヌ大学で現代フランス文学を専攻した。父親は食品店を営み、今は妹さんが引き継いでいる。万年学生を自認する半田さんは、パリで通訳をしたり、80年代にはアルジェリアの日系プラントで数年、通訳として働いた。
パリに50年近く住まわれていますが、結婚などを考えたことはありますか?
若い頃から、私は誰かと共同生活することなどは考えられませんでした。長くフランスにいて私が好きなのは、フランス人の個人主義とエゴイズムです。個人主義は孤独にもつながりますが、各々が自立していることによって精神的にも豊かになれます。自分が精神的に豊かなら、付き合う人も豊かになれます。
余暇をどのように送られていますか?
毎週、カトリックかプロテスタント教会のミサを聞きに行きます。お経にも良いことが書かれています。それと近くの公園に散歩に行くことです。80歳を越えた頃から、しみじみと孤独を感じます。ですから特に話し好きな女性と会っておしゃべりするのが好きです。あとフランス語で詩を書いたり、日本人滞在者にフランス語を教えたりしています。
住居や年金はどうなっていますか?
70年代から14区のデュプレックスの低家賃住宅HLMにいましたが、80年代に改築後、新しいHLMの2部屋のアパートが借りられました。現在家賃は600ユーロですが、住宅手当が半額支給されます。私は自由業ですが、国の老齢年金として税込で約1000ユーロ(手取り約800ユーロ)を受けています。それと、社会福祉課から、週1回お手伝いさんが派遣されてくるのでアパートの掃除などをしてもらっています。
日本に帰国されることはありますか?
3年前に帰国しましたが、こちらに長く住んでいると、やはり「浦島太郎」になりますね。日本の新聞もテレビも見ませんから。メールなど使っていません。大阪に帰ると、どうしても人々の口から「もうかりまっか?」という挨拶の言葉が耳に響きます。フランスだったら「ボンジュール、コモンサヴァ?」でしょうけれど。