パステルは15世紀頃にフランス、イタリアで発明されたといわれており、17〜18世紀には王侯や貴族の肖像画を描く画家に、服の質感や顔への光の当たり具合などを再現するのに適したパステルがもてはやされた。その最盛期に活躍した肖像画家モーリス・カンタン・ド・ラトゥール(1704~88)は『ポンパドゥール公爵夫人の肖像』で有名だ。その後は油彩が主流になったものの、パステルは印象派やナビ派によって復活し、今でもその独特の風合いを愛する画家は多い。そもそも、「パステル」という名前は、紀元前から藍色の染料として重用されたアブラナ科のホソバタイセイが「Pastel des teinturiers(染物屋のパステル)」と呼ばれたことから来ているそうだ。
去る9月17~18日の歴史遺産の日に、3百年近い歴史を持つメゾン・デュ・パステルの公開訪問があるというのでパリ3区のランビュトー通りに行ってみた。
創業1720年のメゾン・マックルを1878年に化学者・薬剤師アンリ・ロシェが引き継いだものだ。画家との深い親交を持つ彼は、より描画効果の優れたパステルを製作することに成功し、500色作った。息子のアンリ(医師)は20世紀前半に1650色まで増やし、第2次大戦後も、娘3人が継いだ家業は1960〜70年代にパステルが復活したこともあって順調だった。しかし、80年代からは需要が減り、3姉妹は80歳を超え、1999年には廃業の危機に。
そこで救世主のように現われたのが遠い親戚のイザベル・ロシェさん。石油会社のエンジニア職を投げうって2000年にメゾンを継いだ。3姉妹の死後は一人では500色を作るのが限界だった。ところが、研修生として来た米人マーガレット・ゼイヤーさんが2011年から社員として留まることになり、新色を果敢に追及する精力的な彼女のおかげで、現在は1149色に増えた。
残念ながら、パリ郊外イヴリンヌ県にあるアトリエは訪問不可ということだったので、ビデオで製造過程を見た。パステルは顔料(粉末)と結合材(これは企業秘密)を混ぜて作られる。水と混ぜて白いクリーム状になった結合材に1〜2色の顔料を混ぜて、作りたい色のニュアンスを出す。粘土状にこねたものを重石にかけて水分をとり、再び手でこねて小分けにして一本ずつ手で棒状にし、並べて乾かす。全工程に1週間かかるという(2人で1週間に900本生産)。顧客である画家が求める色を作るための新たな顔料を探すのも仕事だ。逆に、保存している古い顔料を復活させることもある。
生産量が限られているので、いくつかの画材店に卸す他はほとんど顧客に直販している。ゆえに店も週に一度、木曜日だけ営業。社長と社員1人で経営的にはギリギリだ。この無形文化財企業(EPV)を「大きくするよりは、存続させることが第一。ここなら欲しい色が見つかる、と画家が言ってくれるようなメゾンでありたい」とイザベルさんは言う。(し)
営業時間:毎週木曜14時〜18時、その他の日時は予約制にて対応。
La Maison du Pastel
Adresse : 20 Rue Rambuteau, 75003 Paris , FranceTEL : 01 40 29 00 67
アクセス : Rambuteau
URL : www.lamaisondupastel.com