1929年にウオール街の株大暴落で始まった大恐慌は、美術界にも大きな影響を与えた。戦後の抽象表現主義でアメリカが世界的に注目を集める前の、あまり顧みられることのない時期の美術を、経済、政治、社会事象と絡めて紹介しようという展覧会だ。国全体がデプレッションに陥り、失業者が増え、人々がアイデンティティを模索していたとき、画家たちはそれらをテーマに制作をつづけた。故郷アイオワの風景をもとに、大規模化される前の農業を描いたグラント・ウッド、映画館に集う都会人を描いたレジナルド・マーシュなど、こんないい画家がいたのかと、うれしい発見がある。摩天楼とチューインガムを組み合わせたチャールズ・グリーン・ショーの作品は、ポップアートの先駆けだ。さまざまなスタイルの画家が紹介されており、アメリカ美術の層の厚さを実感できる。ジョージア・オキーフ、エドワード・ホッパーといった著名画家のいい作品もある。
ケ・ブランリー美術館で開催中の展覧会 The Color Lineで紹介されている黒人差別の社会現象と重なる部分がある。黒人の画家、アーロン・ダグラスの作品は、両方の展覧会に出ている。2つを合わせて見ると、アメリカ社会をより深く理解できるだろう。(羽)
1月30日まで (火休) オランジュリー美術館