英国のEU離脱(Brexit)の是非を問う国民投票が6月23日に行われ、離脱が51.9%、残留が48.1%でBrexitが決定した。フィガロ紙第1面が「ヨーロッパの地震」と表現したように、この決定は今後、欧州を大きく揺るがすだろう。
英キャメロン首相は2015年1月、EU懐疑派の勢いに押されて、再選されればEU離脱の是非を問う国民投票を行うと公約した。首相はEUから英国に有利な譲歩を引き出してBrexitを回避しようとした。だが、同じ保守党のボリス・ジョンソン=ロンドン市長がBrexit陣営につくと宣言。キャンペーンは次期首相を狙うジョンソン氏が中心となり、福祉や公共サービスの悪化や失業増は移民増加のせいと決めつけ、EU脱退で難民・移民を食い止め、EUへの供出金を国家予算に回すべき、と大衆の不満に迎合する戦略を取った。国を二分する激しい論戦は残留派議員の暗殺事件にすら発展した。EUを離脱すれば移民増加を阻止できるという根拠に欠ける議論や共通市場から受ける恩恵を無視した論理に、まさか英国民はだまされまいという希望はあっけなく打ち砕かれた。不安と憎悪を煽るポピュリズムは、トランプ米大統領候補当選にまでエスカレートするのか?
EU脱退手続きは、共通市場を維持したい英国との細かい交渉が必要なため最短でも2年はかかる。離脱の影響は甚大。まず、世界最大の金融センター、ロンドンの金融機関は、EU域内に有利にサービスを提供できなくなるため弱体化するだろう。関税復活にでもなれば、英EU間の貿易も影響を受ける。EU側ではEU懐疑派がさらに勢いを増し、離脱のドミノ現象が起きる可能性もある。マリーヌ・ルペン国民戦線党党首はすでに「Frexit」を目指す国民投票の実施を訴えている。こうして、ともに経済と社会の発展を目指す20世紀最大のプロジェクトであるEUは解体していくのか?
英国では離脱派が勝利に酔ったのも束の間、先の見えない将来を恐れて離脱手続きを遅らせようとしているとか。EU残留派のスコットランドは、英国からの独立を問う住民投票を検討中。国民投票やり直しの署名運動に離脱派だった人も含めて27日時点で300万人が署名した。不透明な将来で一つだけ確かなことは、EU存続のためには加盟国が協力を惜しまずに抜本的な改革をするべきということだろう。(し)