欧州連合(EU)からの英国の離脱(Brex-it)回避策を協議する欧州理事会が2月18、19日に開催され、英キャメロン首相とEU加盟国首脳、EU幹部との合意が成立した。
EU残留か離脱かを問う国民投票を公約したEU残留派のキャメロン首相は、離脱派が勢いを増すなか英国に有利なEU改革、特に以下の4点を求めた。(1)英国へのEU移民が英国民と同じ福祉を享受するのは5年目以降、(2)英国会はEU指令の国内適用を否決できる、(3)ユーロ圏の経済政策決定に対するユーロ非加盟国の発言権強化、 (4)経済競争力を弱めるEU規則を緩和する。
英国民の反移民感情の高まりは大きい。2004年以降の東欧諸国のEU加盟で、英国は労働党政権のもと東欧移民を大量に受け入れて労働法を緩和。2014年までに百万人近い移民が入国した。「移民が英国人の職を奪い、福祉予算を食いつぶしていると」というナショナリストや極右の声に押されて、キャメロン首相はEU移民の家族手当や福祉を最初の4年間は制限するという約束をしてしまった。
今回の欧州理事会で、英国は①EU協定に盛り込まれた共通政策目標を免除され、国会がEU政策を否決できる、②ユーロ圏の経済政策に英国の意向を反映、③英国に今後移民するEU他国の労働者については最初の4年は社会福祉関係の恩恵を制限するなど、7年間の「緊急措置」を導入できる、⑤新移民の出身国在住の子どもに対する家族手当は該当国の生活水準に応じたスライド制にする、などの合意が成った。
英首相は、この成果を後ろ盾に6月23日の国民投票に向けてEU残留キャンペーンを開始するが、合意を不十分とするEU離脱派の勢力はまだ強い。1月中旬の世論調査では、離脱派42%、残留派38%だったが、合意後の21日の調査では各33%、48%に逆転。残る19%の態度未定者をどちらがどこまで取り込むかがカギになりそうだ。
EU残留はお金がかかるという離脱派の言い分に根拠はあるのだろうか?英国は2014年EU予算の9.77%(113億ユーロ)を拠出し、独・仏・伊に続く4位。一方、EUから受け取る援助金などと拠出金の「差額」(国民総所得に対する割合で算出)はトップのベルギーから数えて10位(-0.23%)と、経済大国としては持ち出し超過が多いほうではない。
欧州諸国が協力して平和な経済発展を目指すEUの理念に対して、一人勝ちに傾く英国の動きは、他国でも台頭するEU懐疑論とともに自由・平等・民主主義・人権尊重という欧州が長年かけて築き上げてきた理念を根底から揺るがそうとしている。(し)