難民増加で、戦略転換。
フランス政府は9月中旬、シリアのイスラム国支配地域に対する空爆を開始すると発表した。シリアでの空爆は、アサド政権に有利に働く可能性があるとして避けてきたが、「イスラム国」の勢力が衰えず、シリア難民が大量に欧州に流入していることを受け、戦略の転換を迫られた。
マニュエル・ヴァルス首相は9月15日、国民議会で演説を行い、近日中にシリアへの空爆を行う意向を表明した。8日から軍がシリア上空で偵察飛行を行い、オランド大統領は、空爆が必要と判断したという。背景には、難民問題が深刻化し、問題の根源の解決に向けた行動に迫られたとみられる。フランスは1年前から、イスラム国に対抗する中東・欧米諸国によるイラクでの空爆に参加。しかしシリアでの空爆は、アサド政権の勢力拡大につながるおそれがあるとして行っていなかった。
アサド政権に対し強硬な姿勢を示してきた欧米諸国だが、今年に入り、ジョン・ケリー米国務長官が、イスラム国打倒のためなら「バッシャール・アル = アサド大統領との交渉もいとわない」と発言。イギリスとオーストラリアが9月、シリア空爆に踏み切るなど、状況が変化しつつある。
フランスは、シリアの反政府派を世界でもいち早く国の代表と認めた自負があり、ヴァルス首相は国民議会で「アサドには一切妥協しない」と強調したが、一部議員からはアサド大統領との対話の再開を求める声も上がった。
空爆開始の決定に対し、国内で大きな反対は起こっていないが、懐疑的な意見は多い。9月16日付「ポリティス」誌は「シリアに介入すべきか?」という見出しで問いを投げかけた。17日付のリベラシオン紙は「代換プランが必要だ(アサドではなく)」との見出しで、周辺諸国に地上部隊投入を呼びかけるべきとしている。またアサド政権と関係が深く、軍事協力も行っているとみられているロシアとの対話も訴えている。
ほかにも、軍事力がフランスをはるかに上回るアメリカですら、空爆による成果を挙げておらず、効果はないとする指摘や、国連決議なしに介入すべきではない、石油産業などイスラム国の財源を断つことが先決だとする意見もある。
フランスの憲法では、軍の最高責任者である大統領が発令すると、議会の承認なしに軍事介入できる。今回の議案も、討論のみで採決はなかった。
シリアでは4年前の危機勃発以降、25万人が犠牲になった。欧州に逃れる難民の数は第2次大戦後最大となり、実効力ある解決策が一刻も早く求められるが、空爆が最善の策かは不透明だ。(重)