お花畑に半ズボンの男。恋人のために花を摘んでいる…のではありません。ここはフランス一のクレソン生産高を誇るエソンヌ県メレヴィル市、通称〈クレソンの都〉。半ズボン男はオリヴィエ・バルブロさん、1897年から続くクレソン農家の五代目御曹司であります。
豊穣なボース平野の一角にあるメレヴィルの近くにはジュインヌ川の源流があり、年間を通して12℃の清流がクレソンの水耕地に注がれる。5月に花が咲くと、茎や葉が太くなってしまうので水耕地から抜根し、畑地をならして7月15日頃に種を蒔く。今、満開の花畑からは、6月末に種を採取します。1グラムの種から、約3千本の「緑の黄金」クレソンが育ち、来年5月の開花まで8回くらい茎と葉を収穫する。
1811年にナポレオンの軍隊がドイツから持ち帰ったのが、フランスでのクレソンの始まりとされている。かつては、真冬の唯一の緑の野菜だった。今でもほとんどが手作業で、手のかかる野菜だけれど「クレソンが血管のなかを流れている」というオリヴィエさん。多い日は、一万束を出荷している。(美)