「表現の自由」の限界。

1月15日付リベラシオン紙。
1月15日付リベラシオン紙。
 1月7日、クアシ兄弟がシャルリー・エブド誌編集部で12人を、9日、アメリー・クリバリがユダヤ食品店でユダヤ人4人を銃撃した事件は世界を震撼させた。ヴァルス首相は「ユダヤ人なしのフランスはフランスではない」「フランスはテロリズム、ジハーディズム、過激イスラミズム(主義)との戦争に入った」と国会でも宣言した。ユダヤ系フランス人に対する殺害・暴行が続出する中、昨年だけで7千人のユダヤ系フランス人がイスラエルに移住している。
 11日、全国で400万人が「私はシャルリー ! 」と叫び、大統領を先頭に50カ国首脳と共に「挙国一致」の歴史的行進を実現。天上でカビュ、シャルブ、ヴォリンスキー、ティニュスらは苦笑しているだろう。しかし、誰もがテロによる風刺画家たちの死を悼んだわけではない。翌日、中学・高校では一分間の黙祷を拒んだ生徒もおり教師は唖(あ)然。市民の4割はムハンマドの風刺画に批判的だ。反ユダヤ主義が売り物のコメディアン、デュドネが11日、フェイスブックに「今夜、僕はシャルリー・クリバリ(銃撃事件の犯人)になったような気分」と書き、「テロ擁護」の容疑で逮捕された。政教一致のイスラム諸国の市民はテロ1 週間後のシャルリーの表紙を、再度ムハンマドの侮辱とみなし激しい抗議デモを行い、ナイジェリアではデモ中5人死亡。トルコの首相は「表現の自由は宗教を冒とくする自由ではない」と表明している。世界の46%の国は「宗教の批判」を罰し、パキスタンやイランでは死刑に処される。宗教を批判するジャーナリストや知識人は投獄、拷問を受けるか暗殺されている。
 アルジェリア系クアシ兄弟 もマリ系クリバリもフランスで生まれ育ったが、経済・社会的にも八方塞がりの社会に絶望しイスラーム過激思想に染まる。クアシ兄弟は養護施設で少年期を送り、クリバリは17歳から軽犯罪、ドラッグ、銀行強盗などで服役を重ねる。3 人ともビュットショーモンを根城にしたジハード闘士の勧誘グループと接し、クアシの弟とクリバリは拘置所で知り合いイスラーム過激派の服役者に洗脳される。クアシ兄弟はイエメンのアルカイダ組織、クリバリはシリアのジハード軍に参加している。
 ジハード(聖戦)を唱える「イスラム国」は西洋諸国からシリアやイラクに集う青年たちを軍事訓練し、帰国した彼らに個別テロをやらせる一方、カオス状態にある中東・アフリカ諸国でも、地元住民に対するテロと、イスラーム法を厳守するシャーリア法で過激イスラミズムのファシズムを強めつつある。彼らは、西洋社会に同化したムスリム系市民も「裏切り者」として狙う。テロでムスリム系住民と一般市民の反目が深まれば、マリーヌ・ルペン国民戦線党党首の思うツボだろう。
 フランスと同様、多民族・多文化共存のベルギーやオランダ、デンマークの極右勢力の台頭も無視できない。ドイツでも「西洋のイスラーム化に反対する欧州愛国主義運動〈ペギーダ〉」が広まる。南北問題は、かつての植民地主義による世界の分割に端を発している。第三世界からの大量移民により南北の境界が薄れ、植民地時代にキリスト教によって抹消しようとしたイスラーム原理主義派が「アラー」の名を掲げて、西洋諸国にくい込んでいきつつあるといえないか。(君)