ミリアム・ロマンさんにインタビュー
パリ・ソルボンヌ大学のフランス文学部で教鞭(きょうべん)をとっているミリアム・ロマンさんは、ヴィクトル・ユゴーの専門家。パリ・ディドロ大学が主催する研究会〈グループ・ユゴー〉のメンバーでもある。ユゴーの小説『死刑囚最後の日』についての解説本をFolioから出版した彼女の話からは、ユゴーが現代のフランスに確かに息づいていることが感じられた。
フランス人にとって、ユゴーはどのような作家ですか?
長い間、ユゴーは詩人としてよく知られる存在でした。昔は、学校でユゴーの詩を習ったものですが、ここ15年から20年は、中学や高校で『死刑囚最後の日』や『クロード・グー』など、死刑廃止を訴える小説が教材とされていることもあり、ユゴーはむしろ小説家として認識されています。去年リヨンで〈Justice& Injustice〉というオペラ・フェスティバルがありましたが、その時も『クロード・グー』にインスピレーションを得た新しいオペラ『クロード』が上演されました。脚本はロベール・バダンテール。法務大臣だった1981年に死刑を廃止した人物です。彼はユゴーの熱烈な愛好家で、この作品を通してユゴーにオマージュを捧げました。
『死刑囚最後の日』は、どんな内容ですか?
この作品を初めて読んだのは、ユゴーの小説について博士論文を準備している22歳の時でした。おそらく、ユゴーの小説の中で私が一番好きな作品ですね。死刑囚の最後の24時間が、とてもシンプルに、簡潔に書かれています。死刑囚の意識を追っていくというアイデアは、とても素晴らしいと思います。また、この死刑囚が犯した罪について最後まで言及されていないのは、とてもモダンな手法です。ユゴーは、その手法によって途方もなく効果的な話を編み出したんです。話の主人公である死刑囚は小さな娘に宛てて身の上を説明する文章を書こうとはしますが、それは結局書かれないし、読者も彼が犯した罪について知ることがない。そこに、この作品の強さがあるんです。
ユゴーの9つの小説の中でおすすめは?
それがまさに『死刑囚最後の日』です。この短編はボキャブラリーも簡単ですし、歴史的な知識がなくても読めるし、 強く心に訴えてくる作品です。死刑囚は人間らしく描かれていますから、感情移入しやすくもあります。また、この死刑囚は、ブルジョワ階級の教育を受けた人間という設定で、刑務所で貧しい人々の世界を知っていき、そこから 社会への意識が芽生えていく過程も描かれています。この作品は、ユゴーの社会参加(アンガジュマン)、そして巧みなエクリチュールにふれるのにも適しています。2冊目におすすめしたいのが『レ・ミゼラブル』です。登場人物が生き生きと描かれていますし、この本を読むことで、フランスの半世紀の歴史もよく分かりますから。
研究会「グループ・ユゴー」のサイトは
http://groupugo.div.jussieu.fr