しばらく異国料理を書いてきたけれど、作ってもらえたかな? トルコ料理や南欧の料理にも触れたいところだが、これは近々に、ということにして、このへんでフランス料理に戻ります。 初夏らしいアントレとして、スズキのタルタルを作ってみよう。フランス人も、日本の刺身などで開眼したのか、魚を生で食べる人が増えてきている。スズキだけでなく、タイ、マグロ、サケなどを使ったタルタルが、ビストロのメニューのアントレとして載ることが多くなってきている。エシャロットやハーブを上手に使うことが大切だが、 スズキやタイのような白身の魚の方が、その香りが一段と引き立つようだ。
中くらいのスズキを2尾買ってきて三枚におろすと、そのおろし身は500グラム前後になるはずだ。刺身と同じで、骨が残っていたりしたら最低! とにかく丁寧に骨を抜きます。これを1.5センチから2センチ角ほどのさいの目に切る。包丁がよく切れないと、スズキの身を押しつぶすことになり、うまみが半減する。冷蔵庫に入れておきましょう。エシャロットは細かなみじん切りにする。シブレットも細かなみじん切り。ショウガはおろしておく。
家族や友人たちがテーブルに着いたところで、仕上げです。ボウルにまずさいの目に切ったスズキを入れる。ここへエシャロットとシブレットのみじん切り、おろしショウガを加え、やさしく丁寧に混ぜ合わせる。
最後に調味料を加えるのだが、あくまでも自分好みの味を見つけることが大切だ。ボクは、魚500グラムに対して、オリーブ油大さじ1杯、酸味が柔らかいシェリー酒が原料のビネガー大さじ2杯、塩二つまみ、エスプレット産唐辛子を二つまみ加える。もう少し酸味がきつい方を好む人は、ビネガーとライムの搾り汁を半々にするのがいいだろう。全体を混ぜ合わせたら、各人の皿に盛り付ける。ボクは、庭に生えているシブレットの、今が花盛りの紫色の花を添えた。これも食べられます。ワインはサンセールの白が合うだろう。(真)
スズキのおろし身500グラム、エシャロット3個、シブレット1束、おろしたショウガ小さじ1杯、オリーブ油大さじ1杯、シェリー酒ビネガーvinaigre de xérès大さじ2杯、塩少々、エスプレット産唐辛子少々。
●bar péché, bar d’élevage
南仏では「loup オオカミ」と呼ばれているスズキbarは、フランスでも、その締まった白身が愛されていて高級魚だ。高級魚だけに養殖もされている。養殖スズキはキロ13€前後で、サイズも普通600〜700グラム前後と揃っている。手頃な値段のレストランでメニューに載っているスズキは、ほとんどが養殖もの。天然もののスズキはbar sauvageとかbar péchéと表記されて魚屋に並んでいるが、やはり値段は張ってキロ20€を超えることが多い。おろし身にしてからグリルしたりポワレして、ソースを添える時などは、養殖ものでもおいしくできる。けれど、今回のタルタルとか刺身の時は、やはり天然ものにしたい。変に脂っぽくなくて、うまさが倍違う!
●フランスの養殖魚
フランスの魚屋に並ぶ養殖魚は、スズキbar の他には、タイdaurade royale、ヒラメturbot、サケsaumon、マスtruiteといずれも、養殖するだけの価値があり値段が張る魚です。たとえばタイは天然ものだとキロ30€前後だけれど、養殖ものでもキロ15€前後はする。養殖ものの利点の一つはサイズが揃っていることで、レストランにとっては便利。レストランのメニューに載っているスズキの一品が15ユーロ前後だったら、間違いなく養殖もの。刺身やタルタルなど生で味わう時は、天然ものに軍配が上がる。
最近は、マグロの刺身に目がない日本人向けに、地中海でマグロも養殖され始めた。養殖マグロの1キロの身のために、そのエサとして、なんと18〜20キロのサバが必要だという。あまりにももったいない。海の資源を守るためにも、マグロの刺身はたまのぜいたくにして、安くて新鮮なサバをしめて舌鼓を打ちたい。
●pince à arêtes
魚の中骨を抜く時は、専用のpince à arêtesがあると便利。毛抜きだと骨がよくつかめないが、この骨抜きは、先が1センチほどの幅があるので、中骨をしっかりとつかんでくれる。10€前後。