30年の歴史を誇るこの小さな「箱」は、毎夜素晴らしいセッションが繰り返されるジャズの名店。ノスタルジックで温かみのある店内は、タバコのヤニですすけたままの深い褐色。バーカウンターも木製で、4種の生ビールは3.5€から。基本的にはバーだが、予約すればクスクスも食べられる。
訪れたこの日は、 フリージャズの大御所トランぺッター沖至とその仲間たちが、1年ぶりにパリにやって来たボーカリスト、リンダ・シャーロックを迎えてのセッション。マリオ・レッヒターンのサックス、エリック・ジンマンのピアノ、ヨラム・ロッシリオのベース、そして佐藤真のドラムスによる即興演奏。マリオのサックスの一音を皮切りに、複雑に絡み合う音が、積乱雲のように力強く一気に立ち上がった。
ビリー・ホリデーの曲の第一人者として、日本でも多くのファンを持っていたリンダ・シャーロックだが、数年前に脳卒中に見舞われ言葉が出なくなってしまった。それでも歌い続ける。ドラムスの佐藤真が「最晩年のビリー・ホリデーの声は、晩年のマリア・カラスの声同様に、張りやツヤなど、声を飾るものがないが、その分、彼女たちの生き方があらわに浮かび上がるようで、胸に直接沁み入ってくる。リンダ・シャーロックの声にも、それがある」と語るように、彼女の声は深く、言葉ではなく音で、そして生き様で観客の心を揺さぶるのだった。
ほとばしる熱気に包まれて、またとない音楽体験に出会える貴重な場所。(高)
BAB-ILO
Adresse : 9 rue du Baigneur, 75018 parisTEL : 01.4223.9919
火〜土18h-02h、 日18h-22h。月休。 - 日曜営業 - 祝日営業 - 22時以降営業