列車でリスボン駅に着いて少し歩くと、右手にアルファマの丘がある。曲がりくねった細い石畳の道は、陽射しが強いので建物の影が濃く落ちていた。昼ごはん時になって、小さなレストランに入ったら、いかにも下町っ子という、小太りで腕の太いのおじさんたちでいっぱいだった。
塩出ししてから、さっと湯がいただけの干ダラをとったのだが、うまい! 付け合わせはゆでジャガ、トマト、ピーマンで、温かいオリーブ油がたっぷりかけてある。食事が済んでコーヒーを飲んだところで、隣のおじさんたちが飲んでいる透明な酒が気になった。ボトルで頼,んで小さなグラスに注いでは、おいしそうに飲み干している。ポルトガル語はできないから、それを指さして名前を聞こうとしたら、一人が自分のグラスをボクに差し出して、飲んでみろという仕草。ひと口飲んだら、フランスのマール酒に近い。のどに熱いが、すっきりとした飲み口。「アグアルデンテだ」。それからは、フランス語ができる人もいて、飲んべえ同士の酒談義が始まった。ポルトガル人は、最初はどこか無骨で取っ付きにくいけれど、一度気を許すと、優しい笑顔になり、声も大きくなる。
それからは、どこのレストランで食べても、食後酒は「アグアルデンテ、ポル・ファヴォール」。そして後になって、長く寝かされてコニャックにも負けない味わいの、こはく色をした「アグアルデンテ・ヴェーリャ」があることを知り、それからは、この「ヴェーリャ」のとりこになった。(真)