ポップアートの代表的作家、リキテンスタインは好きな作家ではなかったので期待せずに行ったが、いろいろな意味で刺激的な展覧会だった。
ロイ・リキテンスタイン(1923-1997)はニューヨークで生まれ、オハイオ州立大学で美術を学んだ。自分の子どもにミッキーマウスを描いてやったとき、漫画の持つ力に気づいた。それまでは抽象画を描いていた。その作品も展示されている。
漫画が好きだから描いていたのだと思っていたが、漫画の理想化されたステレオタイプの美男美女を批判しているのだという。けれども、できた作品は、漫画の賛美になっている。リキテンスタインの描いた女性を見た人は、大衆文化への批判よりも、きれいな女性だと思うだろう。描き手も、自分が否定するものを丹念に描く気がするだろうか。イギリス人マルチアーティストのリンダー(本紙2013年3月1日号参照)同様、批判の対象に魅了されるという逆転現象が起きている。戦争場面も、軍事攻撃の無意味さを言いたいのだと本人は言うが、彼が描くのはあっけらかんとした戦闘場面で、無意味さは伝わってこない。
漫画の印刷の目のドットを緻密に描き込んだ。機械が人を真似るのではなく、人が機械の域に達しようとする。本人いわく、「人の手が入っているのがわからないように描くのが目標」だった。それは職人芸だ。けれども、会場にある制作中のビデオからは、マティスの絵の要素を取り込み、自分のものにするために試行錯誤する様子が伝わり、その制作過程が芸術家のものであることがわかる。彼には芸術家の精神があり、芸術活動を行っていたが、できたものは機械生産を模倣した職人仕事で、ここに作者の気質とそこからでき上がったもののギャップがある。
巡回展だが、パリに来る前に開催されたアメリカとロンドンの展覧会には出なかった彫刻と版画が加わっている。アールデコ風の彫刻、ブランクーシ風の彫刻、食器デザイン、ピカソからインスピレーションを得た版画。どれをとってもリキテンスタインだ。モネも研究して、ルーアンのカテドラルをリキテンスタインのスタイルで制作してみせた。ここまでくると、好き嫌いは別として、あっぱれと言うほかない。(羽)
11月4日迄(火休)。ポンピドゥ・センター。
画像:Roy Lichtenstein dans son atelier de Southampton.
左から右へ : Mirror I [Miroir I] (1976), Glass I [Verre I] (1977),
Goldfish Bowl [Bocal à poissons rouges] (1977), Glass II [Verre II] (1976)
et Landscape with Figures [Paysage avec figures] (1977),
Photographie de Horst P. Hors
© Estate of Roy Lichtenstein New York / ADAGP, Paris, 2013