会期が残り少ないが、今後再評価が始まるであろう優れた作家なので、あえて取り上げたい。
ジョルジュ・ノエル(1924-2010)はフランス南部のベジエ生まれ。戦後、工業デザイナーになったが、1955年以降は美術一筋の道を歩んだ。パリに出て、アンフォルメルの作家たちと交流し、自動筆記のようなデッサンが前面に出た抽象絵画を制作する。
1968年にミネアポリスに客員アーティストとして招へいされたことから、1年の予定で渡米したが、その後ニューヨークに惹かれて、1983年までそこに滞在した。美術史を専攻したアメリカ人妻はソルボンヌで教べんを取るチャンスを棒に振って夫と渡米し、グッゲンハイム美術館の学芸員になり、生活を支えた。ノエルにはそのうち画廊がつき、絵も売れるようになったが、彼を支えていた画廊が、80年代に具象画の作家を取り上げるようになり、ノエルとの関係に終止符を打ったことから、フランスに戻った。
一貫して抽象絵画と彫刻を制作してきた。アメリカ時代の作品は幾何学抽象だ。細い線や長方形が画面に配置されている。赤や黄色の線が暗い背景から浮かび出る。幾何学抽象だが機械的にならず、有機的で、作者の思いや感情が伝わる作品になっているのは、素材によるところが大きい。
1960年頃、ノエルは素材にポリ酢酸ビニルを使うことを思いついた。アメリカ時代は、それに砂を混ぜ、独特の質感が画面から感じられる作品を作った。
ノエルの父は顔料を扱う雑貨商で、建物の塗装や修復の仕事もしていた。それで、彼も若いときに、それらの仕事を経験している。うねった表面や、きめ細かい均一の表面を見れば、その時の技術が後年の作品に生かされているのがわかる。
『New York Brownstone (ニューヨーク 茶色の石)n°2』
は、こげ茶のグラデーションの幾何学模様がコンデンスミルクのような色のキャンバスに載っている。キャンバスとの境目はせき止められている。それで、「描かれている」というよりも「載っている」というほうがふさわしい。ニューヨークの街角で見つけた石を砕いて、顔料を加えず、石の自然の色を活かした。質感はあるのに、染色のような印象を与えている。(羽)
Galerie Thessa Herold : 7 rue de Thorigny 3e
7/11迄。月休。
写真:New York Brownstone n°2. 1980
Acétate de polyvinyle, silice et pigments
sur toile 127x168cm
©Alberto Ricci