5月12日フランス1 部リーグで、パリ・サンジェルマンPSGはオランピック・リヨネを1-0で破り、19 年ぶりに3度目の優勝を果たした。翌日エッフェル塔を背にトロカデロ広場に結集したファン、サポーターらにフーリガンも加わり1万5 千人がシャンゼリゼに繰り出し、800人の機動隊も手におえない勢いで暴動化。10店舗余のショーウインドーを損壊、商品強奪、十数台の車(3台放火)やスクーターも損壊、負傷者32 人…。15日、暴行・損壊罪で13人に実刑が下った。
ブローニュのパルク・デ・プランスをホームスタジアムとするFCパリ・サンジェルマンは1970年に設立された。FCバルセロナ(1899年)やマンチェスター・ユナイテッド(1902年)に比べると歴史が浅い。PSGの持ち主は、前株主コロニー・キャピタルから買収(2011年に70%、昨年30%を買収)した単独株主、カタール投資庁QIAの子会社カタール・スポーツ・インベストメントQSI。
カタール国(コルスと同面積)は数年来フランスの超高級ホテルからデパート、大企業、シャトーまで買い漁り、PSGの買収もその一環。カタールのタミーム皇太子の友人、ナセル・アル・ケライフィ氏がPSG会長に就任。以来移籍市場を狙い昨年夏、SSCナポリからラベッシ、ACミランからブラジル代表チアゴ・シウヴァ、スウェーデンのイブラヒモビッチ、今年2月ベッカム(英)と大物選手を次々に獲得(38歳のベッカムは3カ月後の5 月19日に引退)。これまでの移籍料だけで約3 億ユーロ、PSGの年間予算3000万ユーロ、イブラヒモビッチの年俸1800万ユーロ(税込)…。湯水のようにPSGに金をつぎ込むQSIだが、カタールは2022年ワールドカップ主催国。主催国になるために2010年に3300万ユーロ(候補国大使としてジダンと元バルセロナのコーチ・ガルディオラに1000〜2500万ユーロを払う)、カタール観光庁も4年間で6億ユーロを投入。PSGの買収は、10年後のワールドカップに向け、世界に「カタールここにあり」を誇示するための露払いともみられる。
しかしパルク・デ・プランスで2006年、2010年とサポーター同士の衝突でそれぞれ死者1名が出たため、当時のルプルーPSG会長が犬猿の仲のサポーターグループ、ブローニュ組(山の手勢)とオートゥイユ組(近郊の若者ら)のスタンドを撤去し、過激サポーターやフーリガンの観戦を禁止、サポーター・クラブ「ウルトラ」なども解散させた。アル・ケライフィ会長は以前にまして厳しい治安態勢を敷き、入場料を高くするなどホームスタジアムのエリート化を進める。
長年PSG を熱列に愛し、自分たちのサッカークラブと誇ってきた「ウルトラ」系サポーターたちは、PSGはいまやサポーター精神を無視し、金が支配するマーケティング戦略に侵されていると、カタール株主に反感を強める。カタール側から見れば、PSGの勝利をこのときとばかりパリの名所トロカデロ広場で祝わせ、パリジャンに花を持たせようとしたのだろうが、PSGファンとカタール資本との遊離が進む中、シャンゼリゼでの暴動事件をフーリガンや、大晦日に車に放火したり商店を損壊させる破壊分子らの仕業とみなすには、PSGが抱える問題の根は深そう。(君)