カラン、カラン! 公園に鐘の音が響き、子供たちが劇場に吸い込まれていく。人形劇ギニョールが始まるのだ。19世紀初頭にリヨンで生まれたギニョールは、今も全国の公園などで鑑賞できる。なかでもリュクサンブール公園内の劇場は1933年に創設された老舗。
幕があがると子供たちの顔が華やぐ。演目は『Les aventures du chat minouchet にゃんこの冒険』。やんちゃな猫が主役だが、もちろんおなじみのギニョールも大活躍する。舞台にギニョールが登場すれば、「気をつけて!」と客席から応援の声がかかる。歌舞伎のようにお約束の掛け声が飛んでくるのだ。かつてリヨンの貧しい織物職人たちのため、支配層と権力を強烈に皮肉った寸劇として人気を博したギニョール。今のパリの子供たちも、庶民の味方ギニョールに寄り添っているようだ。
劇は約40分。集中力が途切れがちな子供のため短い休憩が入る。大変なのは動きっぱなしの人形使いか。すべて録音されているセリフに遅れないように人形をきびきびと動かしていく。「ピアノのように基礎が必要。スピード感が命、練習あるのみ」と言うのは、この道半世紀以上、二代目の座長フランシス=クロードさんだ。
ギニョール劇にはこん棒で激しくたたき、誰かをこらしめる場面が定番だが、少々暴力的に見えなくもない。だが大げさに表現されるので、明快かつ爽快。日本の昔話のようなお説教臭さが、ここには一切ないように思えるのだが。「教訓がない? いやいや悪者が退治される、これは人生の基本、勧善懲悪さ。子供たちはあなたの説教には耳をかさなくても、ギニョールの教えだけはちゃんと聞くんだから」(瑞)
ギニョールの主な登場人物
ギニョール Guignol
ギニョール劇の生みの親、ローラン・ムルゲ自身がモデルという説も。リヨンの織物職人で庶民の気持ちを堂々と代弁する。怒りっぽく、おしゃべりでナイーヴ。いつもチョウネクタイをしている。手には人をたたくための棒を持っていることも。
ニャフロン Gnafron
靴の修理人。ギニョールの年配の友。哲学的なことを口にするが、酒とパーティが大好きで、いつも鼻の先が赤い。
マデロン Madelon
従順で働き者のギニョールの妻。真面目で心配性、不満を言いがち。パーティは好きではない。
トワノン Toinon
劇によって役が変わるが、ニャフロンの妻として登場することが多い。賢さの象徴とされる。
ジャンダルム Gendarme
憲兵。権力にぶらさがる単純な人物。ギニョールからよくたたかれる汚れ役。
●Théâtre des Marionnettes du Jardin du Luxembourg (6e) 01.4326.4647
RER B Luxembourg/M°Vavin
年間約12作品ほどを上演。
水15h30、土日11hと15h30。4.7€。
guignolduluxembourg.monsite-orange.fr/
その他のパリのギニョール劇場
-Théâtre des Marionnettes : Orée du bois de
Vincennes 12e 06.7523.4589
-Théâtre de Guignol au parc Montsouris :
Parc Montsouris 01.4663.0809
-Théâtre de Guignol des Champs-Elysées :
La Promenade des Champs-Elysées
au Rond-Point 01.4245.3830
-Théâtre de guignol du jardin d’Acclimatation : Bois de Boulogne 16e 07.6025.7733
子供たちの笑い声や掛け声が 劇場内に響く。
座長のフランシス=クロード・ デザルティスさんが手にするのが ギニョール。左がニャフロン。
Théâtre des Marionnettes du Jardin du Luxembourg