パリでシャンソンが聴きたいといえば、一番に名前があがる伝説の店が〈ラパン・アジル〉。ピカソ、ユトリロ、モディリアーニ、コクトー、サティなど、そうそうたる芸術家たちが愛した場所。あまりにも有名なので、観光客ずれして楽しくないだろうと敬遠していたが、なかなかどうして、そこは時空を越えてタイムスリップしたかのような、すばらしい空間だった。
赤いランプシェードのかかった薄暗いサロン。長い年月によりそい、人々の手と酌み交わされるグラスでこすれて、すっかりすり減った大きなテーブル。壁一面を埋め尽くす巨匠たちの作品と、ノスタルジックでやさしいピアノの旋律。やがて真ん中のテーブルになにげなく座っていた歌手たちが、友人に語りかけるかのようにふと歌い始める。
生きる喜びや悲しみ、恋や離別、社会風刺などを歌うシャンソンは、言葉が分かってこそ、そこはかとなく味わい深いもの。だから有名な曲がかかれば、詩をかみしめながらみんなで歌う。歌い手も指揮者となって全体を盛り上げる。かつて日本にあった歌声喫茶を思い出す、何ともいえない一体感が生まれる。もちろん世界中から集まるお客さんの中には、フランス語が得意でない人もいるが、この伝説のシャンソニエは手慣れたもの。歌詞なしで歌うスキャットの掛け合いで見事に参加させてくれる。たとえワンフレーズでも一緒に歌えば、忘れられない思い出の夜になることだろう。この独特の雰囲気と歴史ある建物は、まさに文化遺産。一度は訪れる価値がある。(高)
Au Lapin Agile
Adresse : 22 rue des Saules, 75018 ParisTEL : 01.4606.8587
URL : http://www.au-lapin-agile.com/
21h-01h。月休。24€(ドリンク1杯付き)/ 学生17€(26歳未満。土、祝除く)。 - 日曜営業 - 祝日営業 - 22時以降営業