小粒ながらおすすめしたいのが、オランジュリー美術館で開催中のスーティン展だ。あちこちで少しずつ見てきて、いまさらスーティンなんぞ、と思っていたが、このようにテーマ別にまとまって展示されたものを見ると、彼の天才性に改めて衝撃を受ける。
ハイム・スーティン (1893-1943)は、ロシア帝国領だった現ベラルーシの貧しいユダヤ人家庭に生まれた。ミンスクでデッサン教室に通い、そこで美術の基礎教育を受けた。その後、現リトアニアの美術学校で学んだ後、1913年にパリに出てきた。ここでも美術学校に登録し、ルーヴルに足しげく通った。と、ここまで書いたのは、スーティンには「極度の貧困」、「呪われた芸術家」、「モンパルナスの野蛮人」と、文明から遠く隔たったところにいるようなイメージが付いて回るからだ。しかし、実は各地でアカデミックな美術教育を受けた人である。
この展覧会を見れば、スーティンが激情にかられて描きなぐるタイプではなく(一見そう見えるが)、非常に頭脳的な芸術家であることがわかる。レンブラントの牛の絵からインスピレーションを得た作品は、レンブラントのものと比べて見れば、彼が題材をどう消化したかがわかり、興味深い。切り裂かれた牛の体内が地図のようであり、スーティンの風景画に通じるものがある。
彼の風景画は歪んでいる。道も家も、彼の心の中を吹き荒れる思いや感情の嵐に動かされ、大きく傾いている。『Les Maisons 家』の一つ一つの家には顔がある。脚も生えている。不穏な雲行きの空の下、狭いところでひしめきあっている群衆のようだ。
肖像画もデフォルメされているが、しぐさや表情にモデルの特徴がよく出ている。人間に対する観察眼は鋭い。「スーティンの赤」ともいえるすばらしい赤が、コーラスの少年の帽子やマドレーヌ・カスタンのドレス、カフェのギャルソンのチョッキに見られる。インテリアデザイナーのカスタンは、夫婦でスーティンのメセナおよび友人になった人だ。会場内のビデオで、彼女が語るスーティンのエピソードも聴きごたえがある。(羽)
Musée de l’Orangerie : チュイルリー公園内
1月21日迄。火休。
Chaïm Soutine (1893-1943) “Les Maisons”, 1920-21
Paris, Musée de l’Orangerie © ADAGP, Paris 2012
© RMN (Musée de l’Orangerie)/Hervé Lewandowski