マルセイユといえば、20世紀初期からナポリやシシリア、コルシカ系マフィアやギャングが暗躍し、麻薬や売春、スロットマシーン網を支配する仏版シカゴとみなされてきた。
それがここ数年、スペイン、マグレブ諸国から至近のマルセイユにドラッグ市場が浸透し、17〜30歳のディーラー同士の銃殺事件が相次いでいる。毎年20〜30 件の縄張り争いや復讐(ふくしゅう)の銃殺事件が起っており、8月29 日の銃殺事件で今年に入って市内で14件、都市圏内で21件(殺害未遂26件)。同夜、マルズキ氏(25)は女性友だちと停車中に32弾打ち込まれ即死、助手席にいた彼女は奇跡的に軽症を負う。犯人は逃亡。
この種の銃殺事件の大半はマルセイユ北部地域で起きており、銃器としてカラシニコフ(ソ連製自動小銃)を使用。最近はピストルや拳銃ではなく、戦闘に使われる小型機関銃やカラシニコフが一般化しつつあり、住民は危機感を募らせている。フランス全国に不合法の銃器は推定約3〜700万丁、カラシニコフは約1万5千丁が保持されており、主に東欧・バルカン諸国から入ってきているとみられている。
銃殺事件が続出する中で8 月30日、マルセイユ15-16区のサミア・ガリ区長兼上院社会党議員が、市内に軍隊を導入させドラッグを買いにくる客を阻むことを政府に提案し、政界に波紋を投じた(2011年6月、セーヌ・サンドニ県セヴラン市のガティニョン市長は24時間態勢の国連軍並の軍隊の導入を提案した)。しかしオランド大統領、エロー首相、ヴァレス内相とも「マルセイユには軍隊の入り込む場所はない」と反対を表明。ヴァレス内相は「優先的治安地区」を設定し、警官・憲兵配置の増強を目指す方針だ。「優先的治安地区」としてマルセイユの他、リヨン、アミアン(8/13日の暴動で車が多数炎上)、ストラスブール、リール、パリ地域のサンドニやエソンヌ県などが挙げられる。
司法警察関係者によると、マルセイユでの銃殺犯の半数近くは元服役者で足首に監視用電子ブレスレット着用者だという。が、彼らの服役中に彼の縄張りを奪ったディーラーとの果たし合いや復讐讐(ふくしゅう)がカラシニコフなどによる銃撃戦となり米国版ギャング映画場面が日常化。
港湾や工業地帯の沈滞化でマルセイユ北部の若年失業率は平均50% で住民の貧困化が進む中で、ドラッグ市場が拡散し地域経済の二重構造化が進む(31%の所帯は月収954?以下。若年人口の25 %は中卒程度)。マルセイユのガルデール警視総監などは、同地区の老朽化が進む高層公団住宅の過密化と小路(10歳前後の少年らが見張り番を務める)など、警官のパトロールが困難な密集地区の区画整理を提案する。
9月6日、内相、法相、教育相、都市関係相、経済・財務相などの閣僚会議で、マルセイユ都市圏の警官・憲兵3千人にさらに205人増員、司法部門の拡充、交通機関の拡充、2歳児からの幼稚園受け入れ(全体の3割)、非行少年の更生・指導の強化…など、エロー首相は同市の「無気力状態」からの脱皮を力説。表面的な荒療治よりも深層部からの大手術がなされなければ、麻薬市場による荒廃化に追いついていけなくなるだろう。(君)