ジョルジュ・サンドの食卓から 6

 エミールとジルベルトの恋物語が軸になっている『アントワーヌ氏の罪』(1845年)の舞台は、ガルギレスというベリー地方(現サントル地方)の小さな村。この村に家を持っていたサンドと、そのパートナーで版画家のマンソーは、この田舎でのシンプルな生活をこよなく愛した。この人里離れた村には、日曜になると村中の男、女、子供たちが川で泳ぎ、岩の下に隠れている魚を手づかみでとって、それを皆で山分けするような、そんな昔ながらの慣習が残っていた。文明から取り残されたようなこの土地の素朴な人々や牧歌的な風景は、彼らの目にエキゾチックに映ったという。
 『アントワーヌ氏の罪』には、自らの命を顧みず溺れかけた男の子を助ける農民、川でマス釣りに励む工場勤めの秘書、フスマ入りのパンやライ麦パンを食べる大食漢の召し使い、貧しいのに頼まれるとすぐ人にお金を貸してしまう没落貴族、麻の収穫を気にする有能な料理女などが出てきて、それぞれが見事に生き生きと描かれている。また、果樹園のつくってくれる日陰の効用、リンゴやカリンの木の手入れの仕方が書かれていたりするくだりは、まるで、園芸本のアドバイス並みの詳しさである。
 ノアンでは城主として使用人の管理や事務仕事などにも追われるサンドだったが、ガルギレスでは心静かに愛する人たちとの時間を楽しみ、執筆に打ち込むことができた。ここでサンドが皆にふるまったのは、「偉大なグルメが食するに値する」というザリガニのオムレツ。「ザリガニをゆでて、むして、バターで炒め、熱いところを、4分の3できあがったオムレツに加える」というレシピを誇らしげに紹介している。ここの暮らしがすっかり気に入ったサンドは、マンソーを置いてひとりでこの地を訪れることもあったという。(さ)

 

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