リュクサンブール宮殿にある上院は第5共和制50年以来、保守派が支配する殿堂だった。9 月25日、半数改選で左派が怒とうのごとく圧勝した。社会党111→127、共産党24→21、エコロジー・緑の党4→10と、左派が348議席中177議席を掌握。右派は与党+保守他党を合わせ148、中道も29→23に減退。次期大統領選前にこの大雪崩をもろに受け、与党内でもサルコジ大統領再選の確信が揺るぎ始めており、世論調査(9/29-10/1)でも国民の68%が彼の落選を予想している。
再燃し続けるバラデュール元首相の95年大統領選資金疑惑や、ベタンクール夫人関係の贈収賄疑惑、現大統領の友人・顧問ブルギ氏が西アフリカ諸国から集めた数千万ドルは02年シラク大統領再選資金にしたという証言など次々に右派の政財界疑惑が浮上。その度にバラデュール元首相、シラク前大統領に仕えたサルコジ大統領の当時の任務と、大統領の忠臣目付役オルトフ前内相の名も出没。現大統領の元顧問ゴベール容疑者(スイスに現金入りのカバンを数回取りに行ったという疑い)や、その受取人バジール容疑者(元バラデュール選挙委員長)など大統領と公私共に親しい要人が取り調べ対象に。サルコジ大統領がヌイイ市長時代から織りなしてきた人脈網の各所がほころび始めており、上院での左派による選手交代を当然とみる向きが大勢。
間接選挙制の上院議員選挙人団は約15万人、その95%は市町村県・地方圏議員が占める。フランス革命時に国民議会が設立されたが、ロベスピエールらによる恐怖政治に対する反動として1895 年に設立されたのが元老院こと上院。1958年ドゴール政権下、国民議会は立法府、上院は「良識の府」として再確認され、地方行政の府となり、市町村の名士や事業家らが上院議員に選ばれてきた。以前は任期9年で3年毎に1/3が改選されたが、ジョスパン元首相はこの制度を「民主主義の変則性」と批判し2003年より任期を6年にし、3年毎に半数が改選されることになった。
長年問われてきた地方行政改革がないがしろにされ、財政的分権政策だけが強化され、地方自治体は多分野で節減を迫られている。また戦後のベビーブーマー世代が定年後、都会から市町村に移り住む層が急増。彼らは68年世代でもあり、一般的に革新派が多い。住民の世代交代は、40〜50代の若い市長や村長が増えていることにも反映している。県議会選挙(2011)では左派が101県中60県を、地方圏議会選挙(2010)でも21地方圏中20地方圏を左派が獲得。全国の大部分がバラ色に染まりつつある中で、エコロジー派の若い政治家たちの躍進も合わせて、フランスの社会分布図が深層で変革しつつあるといえよう。
10月1日、上院議長選でジャン=ピエール・ベル社会党議員代表(59)がラルシェ議長を破り、内実共に上院が左派の手中に。ベル議長はピレネー寄りのアリエージュ県出、父親は共産主義者、彼は元トロツキスト。穏和なまとめ役として右派にも人望のあるベル上院議長が大統領に次ぐ座に。
地方議会、上院と左派の上げ潮に対してサルコジ陣営がどこまで抗しきれるか…。戦後保守体制への68年世代の反動が1981 年ミッテラン大統領当選に導いたのだが、21世紀のフランスは左右政権交代劇がくり返されそうだ。(君)