バイリンガル子育てを考える。

バイリンガル教育の専門家はこう考える。

子供をできるだけ日仏バイリンガルにしたいと思っている人たちにアドバイスをいただけますか。
 親が自分の話しやすい言語を子供に話しかけたいというのは自然な欲求です。ところが、フランスは単一言語社会(société monolingue)なので、フランス語の習得が非常に大事だとされています。家で外国語を話すとフランス語がうまくできなくなるといった考えの先生や心理学者がまだ多く、そうした外からの圧力を子供たちは知らず知らずのうちに受けています。
 そういう圧力のなかでバイリンガルを押し進めるのは大変なことです。親、とくに母親は赤ちゃんに自分の母国語で話しかけますよね。ただ話しかけていただけでは子供はバイリンガルにはなりません。親が常に心がけていないといけません。親が子供と接する時間が短かったり、幼稚園に行くようになると、フランス語を聞く機会のほうが圧倒的に多くなります。子供が日本語の文を構成してしゃべるためには、相当な量の日本語を聞かねばなりません。親がたくさんしゃべるほど、子供もしゃべるようになるという調査結果があります。とくに日仏家庭の場合は、母親がしゃべるだけでは不十分で、日本語を話すベビーシッターや友人、DVD、音楽などによって日本語を最大限に聞かせ、日本語という少数派言語が自分にとって役に立ち、母親だけでなく他の人とのコミュニケーションに役立つということを子供が無意識のうちにも理解しなければなりません。

子供が大きくなるにつれてフランス語が優勢になり、日本語で話すことを拒否した場合はどうしたらいいでしょうか。
 子供は大きくなるにつれて、親よりも友だちに影響を受けるようになり、他の子供たちと自分が違うことを無意識のうちにいやがります。子供がフランス語で返事をするようになっても、親は日本語で話し続けることが大切です。たとえば、子供のフランス語の質問を日本語で繰り返してあげてから、日本語で答えるということもおすすめします。
 いずれにしても、バイリンガルというのは言葉だけの問題ではありません。言葉を伝えるとともに、日本のことや日本の家族や思い出などを伝えると、子供は自分が日本とのつながりがあると感じますよね。身ぶり手ぶりから食べ物も含めた日本の文化を親は子供に伝達することになります。そうしていると、子供はしばしば思春期ぐらいになってから日本語をやりたいと思うようになることがあります。親はできる限りのことをし、それから先は子供が自分でやるようになるのです。

嫌がる子供に日本語を話したり、習わせたり、強制するのはどうなのでしょうか。
 言葉は強制するものではなく、話しかけるものです。小さいうちは自分が感情を込めることができる母国語で話しかけますよね。子供が大きくなって、フランス語で答えるようになると、フランス語がわからないふりをして日本語で話すように強制する親もいますが、そうすると子供が話すことをいやがるようになるからおすすめしません。大事なのはコミュニケーションであり、争いは避けるべきです。子供は自由に自分の言いたいことを話すべきでしょう。強制ではなく、親は「与える・提供する」、子供はそれを「享受する」という関係でないといけないと思います。
日本人親が子供に日本語だけ話すと、日本人でない親を排除することにならないでしょうか。
 たとえばフランス人のほうの親に日本の文化に興味を持ってもらうようにしたり、日本語の簡単な言葉を覚えてもらうようにするとか、子供に日本語でしゃべった内容を説明することもできます。パートナーとよく話し合うことが大切です。案外、当人は気にしていない場合も多いです。片方の親がバイリンガルに反対のカップルのケースも知っていますが、その場合は言葉ではない別の問題がからんでいるケースも多々あります。

他にバイリンガル教育に関してよく言われる問題は何でしょうか。
 子供が二つの言葉を混ぜるということはありますが、それは時間が経つとともに解消されます。たとえば、3歳まで母親の母国語で育った子供が幼稚園に入って、先生から「フランス語の語彙が少ない」と言われたりするケースがありますが、それは当然のこと。むしろ問題は、フランス語が遅れていると判断する単一言語主義の先生のほうです。子供はすぐにフランス語を習得し、二つの言語が違うことを理解するようになり、日本語で身につけたことをフランス語に置きかえられるようになります。
 よくいわれるアイデンティティの問題ですが、それはバイリンガルの問題ではなく、文化の問題で、親の持つ文化がフランスの社会にどう受け取られるかということによります。たとえば、英語や日本語ならポジティブに受け取られますが、文化が社会で否定的に見られている言語の場合は、その言語や文化を受け継ぐことが子供にとって難しいケースもあります。ただし、社会で評価されていなくても、家庭内で評価されていれば、子供はその言語や文化に誇りを感じるでしょう。たとえば、アラビア語とのバイリンガルカップルの子でも、親や周りがポジティブな環境なら、アイデンティティの問題はありません。

バーバラ・アブデリラ=バウアー氏Barbara Abdelilah-Bauerはドイツ人女性でフランス在住。バイリンガル教育振興のためのアドバイザー。
言語学と社会心理学を学び、フランス文学博士号取得。
独仏バイリンガル保育園の運営を経て、 2000年からバイリンガル教育に関するサイトwww.enfantsbilingues.com運営。その後〈Bilinguisme-Animation, Formation,
Information (BAFI)〉協会を設立し、バイリンガリズムの普及やバイリンガル家族の交流を図る「Café bilingue(www.cafebilingue.com)」を主宰。
自身もアルジェリア人と結婚し、二人の子供は仏独バイリンガル。著書に「 Le défi des enfants bilingues(バイリンガルの子供の挑戦)」などがある。

La Découverte社発行。16€。

La Découverte社発行。16€。

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