今年4月、ナントで目だけをのぞかせる真っ黒のニカブを着て運転していたサンドリーヌ・ムレールさんが「ニカブは運転を妨げる」と警官に取り調べられて以来、イスラーム男性と一夫多妻生活を営むフランス人女性としてマスコミの話題の人物に。10月7日、憲法評議会も「公共の場での顔を隠すスカーフ禁止法*」を承認、11日に発布された。その直後の27日、カタールTV局アルジャジーラを通しアルカイダ最高指導者オサマ・ビンラディンが、アフガニスタンでの仏兵駐留と、ニカブ・ブルカ禁止法に対し「フランス兵が現地人を殺しているようにフランス人を殺す」とフランスに宣戦メッセージを放った。以来、仏内務省は空港・駅での対テロリスト警備隊を増強。
サンドリーヌさんはナント郊外出身、労働者の父と靴工場従業員の母親の一人娘。10月15日に出版された彼女の著書『フランス共和国の生けにえ』で、イスラーム教徒としての一夫多妻生活と、彼女がそこに至った経緯を述べている。篤いカトリック信者だった彼女は思春期に神を信じることの意味を探す。祖母は夫に捨てられ、母も夫に欺かれ離婚、友人・隣人の両親も離婚…。男女の不貞と夫婦関係のもろさに幻滅する思春期の少女はマグレブ系ルノー工員からイスラームの聖典コーランを借りて読み、指導者イマームにも会いにいく。関係書をも読破しイスラームの理解に努める。19歳のとき、イスラーム男性の正妻、フランス人女性ミリアナ(両親は離婚)と知り合い、親密な仲になり、ミリアナに夫の2番目の妻になれば? とすすめられる。一度も会っていなかったリエス・ヘバジ(32歳)と数カ月交際後、妻となり回教徒名ジャミラと名のる。イスラームの一夫多妻制は妻4人まで許され、リエスはその後マグレブ系の2人の妻を得る。9月6日、移民のフランス国籍剥奪法案(警官殺害犯対象)中、一夫多妻者はその対象にならないと大統領府が発表した。
2歳のとき家族とアルジェリアから移民としてフランスに来たリエスは仏国籍を取得、経済学修士号を得たあと、書店、雑貨店を経営。妻の「ニカブ運転事件」後、リエスらは家族手当の「不正受給」やNGO資金横領容疑などで調べられる。
ジャミラは「優しくて教養があり、包容力のある」リエスを他の妻と共有することに満足し、自分の子供4人と、他の子供も合わせ14人を互いに面倒をみる「妻の一人であると同時にシングルマザーの解放感」を述懐。夫とドバイやロンドンにも滞在し多文化社会の寛容と自由を満喫、聖地メッカ、マディーナにも参拝し回教徒であることの至福を賛美し、「回教徒に対する偏見的見方を変えたい」と主張する。さらに他国の法律や慣習と〈自由・平等・博愛〉の国フランスの排他的政策の隔たりを指摘し、欧州人権裁判所に訴える構えだ。「ブルカで目も覆い、シャンゼリゼを闊歩する金持ちのサウジアラビア女性観光客にも警官は罰金を課すのだろうか」と問い返す。(君)
*ニカブやブルカの公共の場での着用は罰金150€。
女性にその着用を強要した者は懲役1年+罰金3万€。未成年にそれを強要した者は懲役2年+罰金6万€。
『Les Boucs émissaires de la République』
Michalon出版。15€。