9月以来メディアにデカデカと「ドラノエ市長とシラク前大統領が交渉 ? 取引 ? 」と、両者のなあなあ主義(?)を勘ぐるような記事が飛び交った。いまや一市民となったシラク前大統領に華々しかったパリ市長時代のツケがまわってきたようだ。
与党民衆運動連合UMPの前身、共和国連合RPR党首でもあったシラク市長時代1992~95年、RPR職員でありながらパリ市から給与を受けた疑いのあった481人のうち最終的に21人の架空給与疑惑に関し、ドラノエ市長が2001年に手がけたのがシラク前大統領とUMPに対する民事訴訟だった。
しかし、07年まで大統領の免責特権によりシラク氏に絡むどんな疑惑も司法機関は取り扱えなかったから、78歳のシラク氏に退任後もついてまわる諸疑惑がいよいよ最終盤を迎える。
昨年11月以来、ドラノエ市長とシラク氏、UMPの3者側弁護士が架空給与額を計算し、「公金横領」総額221万ユーロのうち165万ユーロをUMP、55万ユーロをシラク氏が共同返済するという協定が成立。その代わりにパリ市は2者に対する民事訴訟を取り下げることになった。この「協定」をめぐり9月27日、パリ市議会が採決、社会党議員77人を含む147人が賛成、13人(緑の党9人)が反対、棄権1人で難なく可決された。が、緑の党・左派議員らの間ではドラノエ市長の政治家としての倫理観を問題視し「公金横領はどこまでも横領。裁判ではっきりさせるべき」と批判の声。右派議員の大半は「歳も歳、彼は長年国に尽くしたのだから…」と大先輩に対し同情的だ。国民はどう思っているのだろう。
ドラノエ市長は「裁判と報復を混同すべきでない」「2被告が架空給与総額を返済することは容疑を認めたのと同じ…大事なのはパリ市民のお金を取り戻すこと」とルモンド紙(9/28)でも弁明。2003年、労組「労働者の力FO」ブロンデル元代表の運転手の給与もパリ市から支払われていた容疑で同氏が28万ユーロを返済した。またシラク元市長付き財政助役ジュペ元首相は1988~93年、7人の架空給与裁判で執行猶予付懲役18カ月、1年の被選挙権剥奪、ボルドー市長の座も追われた(その後モントリオールに1年間移住)。この時UMPはパリ市に90万ユーロを弁済した。
ジュペ判決によりこの疑惑は済んだと思っていたのが、そのうち2人の架空給与に絡むシラク氏の予審で10月5日、ナンテール小審裁判所のクロア検事長(ベタンクール疑惑も担当)は、元パリ市長の直接的関与はなかったとし「免訴」を要求。しかし国会議員・RPR党主・パリ市長…とシラク氏の顧問秘書の架空給与疑惑も解明されておらず、予審判事によってはパリ軽罪裁に送致する可能性も。さらに来年1月か2月には上記21人の架空給与疑惑裁判がひかえており、元大統領が被告席に立たされるのは初めてであるだけに、シラク氏には枕を高くして眠れない日がつづく。(君)