最近、中高校での傷害事件が問題になっている。5月20日にもパリ北西ヴァル・ドワーズ県の中学校の休み時間に中2女子生徒(14)が仲のよい友人(13)の腹部をナイフで刺し重傷を負わせ、教師・生徒たちはショック下に。
この種の過激な暴力事件は全中高校の1割、とくに職業校(生徒千人あたり年13件、一般・テクノロジー校4件)で生じており、校内事件の50%を占めている。警察に届け出られる校内暴力の80%は教師へ暴力や暴言、不遜(ふそん)な態度、生徒への暴力を伴ういじめで、刃物による殺傷事件は2%。最近メディアで話題になっているのは、不登校がちの女子生徒の不良化と非行化だ。少女らは女の子らしさを捨て、革ジャン姿で遊び感覚の集団万引に走り、少女同士のけんかも過激化している。
授業を妨げ校内の治安を侵す男女生徒らは転校と退校・退学をくり返す。そこまでに至る背景に、家庭(貧困、両親の離別、親の失業、家庭内暴力)と地域のゲットー化(郊外の低家賃住宅地区での暴力とドラッグディーラーの定着)という二重の恵まれない社会環境を無視することはできない。
1990年以降、代々の教育相が校内暴力防止対策に挑んできたがほとんど効果はなく悪化する傾向に。シャテル教育相は、今度こそはと4月8日、教育学専門家も含む教育三部会で具体的対策を発表した。サルコジ大統領が提案してきたが実施されなかった、欠席の多い生徒の家族手当支給の停止、治安強化のため準警官・治安員や退職教官など500人を問題校に緊急派遣、教師の選択を校長に委任するなど。
しかし2007年から、財政赤字対策により定年退職者の半数しか新任教師を採用せず、この3年間で5万人、2012年までにさらに8万人を削減する。教員減少化に合わせ、クラス平均24人から25人に増やしたり、選択科目を削減、授業をかけもちする教師には超過勤務手当を支給し、大統領のモットー「多く稼ぐために多く働く」教師を増やすと同時に、教師たちを分断することに。
フランスには犯罪歴のある14~17歳の青少年(約700人)を収容する少年鑑別所や養護施設のほかに、退学させられた中高校生の品行の矯正と再教育にあたる職業訓練もかねる更生施設がある。現在、後者は全中高校生の3.8%、約16万人を収容。この両施設の中間にあたる施設がないことから5月5日、サルコジ大統領は、13~16歳の学校・家庭の「トラブルメーカーに第二のチャンス」を与えるためにミニ寄宿学校100校を開設することを表明した。
いっぽう恵まれない環境にありながら優秀な中高校生を受け入れる「優秀生寄宿学校」30校が昨年9月に開設され、2900人を収容。アマラ市政問題政務次官は2013年までに優秀生2万人を受け入れる方針だ。
中学時代から社会のおもて通りを進んでいくか脇道にそれてしまうか。政治とは、社会の落ちこぼれを青少年期から最小限に抑えることなのだろう。(君)