「フランスの映画製作で、テレビばかりが力を持つシステムが問題」
Arnaud Desplechin
国立映画センターからの前貸し制度は、100本のうち5本位しか選ばれないという大変な競争です。私の作品『クリスマス・ストーリー』の場合、援助は製作費の約6-8%と微々たる額でした。しかもこれは返却するお金。無償の援助金ではありません。難しい企画にお金を貸し、映画がうまくいけば国立映画センターに返すというものです。資金源は映画の入場料の一部がTVA(付加価値税)のように吸い取られ、一カ所に集められているお金です。納税者のお金ではないし、私の嫌いなメセナでもない。だからこそ息が長く続いている良いシステムだといえるでしょう。
しかし現在フランスで起こっているのはこんなことです。プロデューサーたちはいつもあまりにもお金がないために、テレビ局に作品を前もって買ってもらうことで資金を得ようとします。そして映画が無事にテレビに売れたとしましょう。問題はここでテレビ局が「うちも共同製作したのだから助成金をください」と言えてしまうこと。規正する法律がないのです。実際はテレビが本当に一緒に映画製作をしたわけではなく、単に「商品を買った」だけ。なのにテレビが助成金を40%もがっぽりと奪ってしまう。ですから比較的成功している独立系プロデューサーでさえ、経済的には厳しい状況です。
それだけではありません。公正取引の法律がないためにTF1やカナル・プリュスといった大手の局は、助成金を横取りするだけでなく配給にまで手を染める。挙げ句の果てには「私たちが宣伝する」と言い出したり、DVDも自分の会社で作って売ったりする。そこで独立系プロデューサー側にお金は流れません。フランスではこんな方法が横行し、テレビばかりがどんどん力を持っていきます。アメリカやイギリスでは禁止されていることですよ。
とはいえ、作る映画が好きか嫌いかは置いておいても、現在フランスには強いパーソナリティを持ったプロデューサーが存在するのはたしか。例えばトマ・ラングマンは、あの若さで『アステリックス』みたいな超大作を完成させられます。ジャン=フランソワ・リシェ監督の『Mesrine』二部作のような難しい企画だって完成まで導いていける。少なくともこの国では、まだ映画製作のシステムが「可能」だとは言えます。監督のエリック・ゾンカみたいなちょっと変わった男でさえも、アメリカで全編英語の作品を撮ることができるのですから。他のヨーロッパの国を見ても、こんな恵まれた国は他にはありません。50年代よりとは言いませんが、70年代にくらべれば現在は本当に数多くのフランス映画があり、種類も豊富だと思っています。
(聞き手/瑞)
アルノー・デプレシャン
映画監督。フランス北部ルーベ生まれ。フェミスの前身である高等映画学院イデック出身。90年代以降の「新しいフランス映画」を代表する存在。『そして僕は恋をする』、『キングス&クイーン』、『クリスマス・ストーリー』などが代表作。
現在は精神分析学者ジョルジュ・デヴェローの著作『夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録』を基にした映画『Jimmy Piccard』(仮)を準備中。