プチット・マドレーヌの思い出
レオニー叔母のベッド脇のテーブルに置かれたティーポット、ティーカップとマドレーヌ。
プルーストを少しでも知っている者にとって、マドレーヌは他のお菓子とは違う意味を持つ。語り手は、紅茶にひたしたプチット・マドレーヌをなにげなく味わった瞬間、思いがけない幸福感に包まれる。そして、遠い昔に滞在したコンブレーの町、庭園の花々、教会の様子などをありありと思い出すことになる。このエピソードはあまりにも有名で、フランスで「あなたのマドレーヌは?」という質問は「あなたの懐かしい思い出を喚起させるものは何?」という意味で使われるほど。
プルースト記念館のすぐそばにある「Maison de la Proustille」という名の菓子屋の入り口には「C’est ici que “Tante Léonie” achetait ses madeleines レオニー叔母さんは、ここでマドレーヌを買っていました」という文字が躍っている。そう、この町では、『失われた時を求めて』の登場人物と実存する人物の境界線はぼやけていってしまう。「プルースト医師通り」と名づけられた道や「マルセル・プルースト中学校」の看板などを次々と前にすると、プルーストがこの町をモデルにしたというより、プルーストの想像からこの町が生まれ出たかのような奇妙な感覚にとらわれてしまう。ここの帆立貝の形をしたプチット・マドレーヌ。砂糖やバターが控えめで、手づくりならではのほっとする味。
昔風のレシピのマドレーヌです。バターは弱火で溶かしておく。オーブンを220度に温めておく。卵、砂糖、塩をボールに入れて泡立て器で5分ほどよくかき混ぜたら、ふるいにかけた小麦粉を加えてゴムべらなどで切るように混ぜる。最後に用意しておいた溶かしバターを加える。マドレーヌ型にスプーンで生地を入れて、オーブンに。プチット・マドレーヌなら5分、普通の大きさのマドレーヌなら10分ほどで焼きあがる。焼き立ての、ほんのり温かいところをいただきましょう。
*材料(12個くらい):バター90g、小麦粉90g、
砂糖70g、卵2個、塩少々