パリで、たけし再ブレーク。 『アキレスと亀』

 1989年、代打で監督に立った北野武の『その男、凶暴につき』を観た時、「すごい才能! 天性の映画監督だ」と思ったのを今でも忘れない。その後、彼が世界的に知られる映画監督になったのはご存知のとおり。快調に飛ばしてきた北野監督であるが、近年の『Takeshi’s』(2005)、『監督・ばんざい!』(2007)は、的外れという感じで残念ながらいただけなかった。北野武ことビートたけしは、日本のサブカルチャーの重鎮である。うがった見方であるが、彼の取り巻きが彼を「裸の王様」化して彼の才能をスポイルしているような気がしてならなかった。
 そんな心配を和らげてくれたのが『アキレスと亀』。もう実に北野武の映画だ。主人公の倉持真知寿(ビートたけし)は芽のでない画家。それでもへこまずに一生懸命一生絵を描きつづけるという物語。彼の描く絵(北野武画伯の絵)がナイーブなら映画もナイーブで、そこに胸がキュンとなる。真知寿君の数奇な少年時代も、不器用な彼を支える妻(若きころを麻生久美子、中年になって樋口可南子)との二人三脚人生も、よくある構図。そこを変化球に逃げずにストレートで描いているところに好感を抱く。素直に人の言うことを聞いてしまう夫婦が脱線してゆく際のたけしならではのギャグも笑える。いわゆる「お芸術」をおちょくっているのかという見方もあるかと思うが、いや、ここへも北野武はストレートに体当たりしているように思える。世間の評価とは別のところにある人生の重み、そこをけれんみなく描き、さらっと触れているところに北野武のセンスを感じる。
 映画公開は3月10日、3月11日からカルティエ財団で Beat Takeshi Kitano 展、ポンピドゥ・センターでは映像作品の大回顧上映と、この春パリで、たけし再ブレークだ。(吉)