●Izis, Paris de rêve
パりを撮り続けた写真家というと、ドワノーが真っ先に頭に浮かぶだろう。生まれがよかったせいもあるけれど臆せず人々の間に入り込み、そのノリで彼らの生き生きとした表情を正面から切り撮ったドワノーの写真は、一つの物語。
それに引き換え、リトアニアからの移民として苦しい生活を送り、写真館で働くようになったイジスは、「撮りたかったのは人だけど、カメラを持って近づく勇気が出るまで数年かかった」と語っている。撮ろうとしている人たち、時には動物たちに、とてもシャイだ。彼の写真の中でレンズを見つめる人はほとんどいないし、後ろ姿がじつに多い。上からのぞいたようにして撮られたキスをする恋人たち、地下鉄の通路で抱き合う男と女、疲れ果てて地べたにごろごろっと昼寝をしている労働者たち、空き地でウサギを売っている少年、さまよったような目をカフェの窓越しに投げかけている美女、路地にぽつんと座ったネコやイヌ…。
1950年以来20万部を売ったというこの写真集の一枚一枚を見ていくと、泡のようにはかなく消えていく時の中で、こんな庶民たちのその時かぎりの息づかいを一編の詩のように定着させた、イジスの深い人間愛を感じることができる。「私の写真の中では動物たちも夢を見ている」とイジス。そう言われれば、雪のチュイルリー庭園の木馬たちも、乗ってくれる子供たちを待ちながら夢を見ている。(真)
Flammarion社発行。33.25€。