2002年5月8日、パキスタンのカラチでフランス海軍建設局DCNの技術者が乗っていたバスが自爆テロに遭い、フランス人11人(13人重傷)と現地人3人が死亡した。当局はアルカイダによるテロとみなし、03年7月、同国のイスラーム過激派メンバー2人に死刑を宣告したが、その後彼らを無罪放免にした。
6月18日、同問題を担当する仏側判事が遺族に明らかにした報告によると、カラチの爆破事件は、94年パキスタンへの原子力潜水艦3艘売却のコミッションを同軍部関係者に仏政府が支払わなかったことへの報復とみられ「必然的帰結」と発表した。サルコジ大統領は翌日「グロテスクだ、そんな作り話を誰が信じるか」と反論しているが。
中近東やアフリカ諸国に武器を輸出する際、10~20%のコミッションが輸入国の軍人・官僚に、サウジアラビアなどは王室関係者に支払われるのが慣例。リベートをめぐる汚職対策のため経済協力開発機構 OECDは97年に禁止協定を定めたが、フランスは2000年に批准。従って94年台湾へのフリゲート艦売却時の中国・台湾の要人へのリベートも、仏側関係者の収賄がない限り合法的慣例にそっていた。が、フリゲート艦汚職疑惑に関する調査はフランスの国防機密としてお蔵入り。
7月9日付 Le Point誌によると、94年バラデュール首相、レオタール国防相時代に、パキスタンへの原子力潜水艦の売却総額8億5000万ユーロの10%のコミッションのうちの85%は売却後数年にわたりパキスタンの軍・政財界要人(故ブット元首相の夫ザルダリ現大統領もその一人)に支払われたという。同国側の調査により04年、収賄汚職容疑でウルハク元司令官は亡命先のテキサスで逮捕された。
当時のバラデュール首相とシラク・パリ市長とも右派同士の95年大統領選をひかえ(当時サルコジ経済相はバラデュール候補を支援し、以来シラク大統領に憎まれる)、シラク候補はライバルの選挙資金に不審をもち国土監視局DST諜報員に調べさせる。DCNからのリベートの一部がルクセンブルグの銀行のDCNのオフショア口座からバラデュール候補の選挙資金に使用された疑いで、シラク大統領は95年就任後、96年以後パキスタン軍部関係者に払うはずだった15%のコミッションの支払い停止をDCNに命じた。
しかし、6月19日メディアがカラチの爆破事件をめぐる判事の報告を発表直後、バラデュール氏はコミッションの選挙資金への流用の疑いについては全面的に否定している。
元DST職員の証言により、同爆破事件はこのコミッションの支払い停止措置へのパキスタンの軍部関係者による報復という疑いが濃くなってきており、遺族の要求に対しても、国防機密として封じられてきた資料をサルコジ大統領とモラン国防相は公開する意思があると表明している。パキスタン軍部と提携したDCNの技術者を狙ったとされてきた爆破テロの背後に、90年代仏国内の派閥闘争の影が浮上。(君)