おいしいジャガイモ料理三品
ジャガイモは太るから、とみんな口を揃えて言うけれど、これは間違いです。8ページで紹介したケヴィン君の大量のバターが入ったマッシュポテトやフリットを毎日食べていたらどうしても太るけれど、調理に使う油脂を控えめにすることさえ気をつければ、繊維質も多く、ビタミンBやCに富んだ健康食品。ビタミンを大切にしたい人は、皮付きのままゆでたり、ゆで時間を短くして歯ごたえを残したり、ゆでるかわりに蒸したりするといいでしょう。ジャガイモがゆで上がったか焼き上がったかを判断したい時は、先のとがったペティナイフをジャガイモの芯まで刺して持ち上げて、ジャガイモが抵抗なくすべり落ちれば、ゆで上がった証拠です。
●pommes de terre au saumon
ノエルなどでスモークサーモンが残った時などに作るといい一品。なるべく大きいサンバ種などのジャガイモをよく洗ってから、アルミホイルで包み、200度くらいにセットして熱くなったオーブンに入れて30分ほど焼く。その間にサーモンはせん切り、シブレットはみじん切りにし、生クリームと混ぜ合わせ、塩、コショウで味を調える。焼き上がったジャガイモをホイルから出し、上部に深い切れ目を入れて、サーモン入り生クリームをたっぷり詰める。熱々を食べたい。
●pommes de terre sautées
なるべく小さめのシャルロット種などを固めに塩ゆでする。ざるに上げて冷ましてから、皮をむき、輪切りにする。テフロン加工のフライパンに油とバターを半々にとり、バターが溶けたらジャガイモを入れる。絶えずフライパンをゆり動かしながら、始めは強火、表面がカリッとしてきたら中火に落として10分少々炒めれば、中まで食べごろになっているはずだ。ここで、塩、コショウし、きざみパセリを振りかける。ステーキなどの付け合わせに最高だ。ラットのように小粒のジャガイモなら、皮付き丸ごとがいい。ニンニク風味がほしい人は、炒め上がる数分前に、細かくきざんでおいたニンニクを混ぜ入れる。
●pommes de terre au four à l’ail
ジャガイモの皮をむいて薄めの輪切りにする。ココットに油とバターを多めに半々にとる。バターが溶けたらジャガイモを加える。ジャガイモ1キロなら、みじんに切ったニンニク4片とせん切りにした玉ネギ2個を入れ、軽く色がつくまで炒める。ココットにフタをして、180度に合わせて熱くしておいたオーブンに入れる。途中二、三度混ぜ合わせ、30分ほど焼いていく。最後にきざんだシブレットを散らす。ポークや子牛のソテーの付け合わせにいい。
ジャガイモ落ちこぼれ話
●パルマンティエ氏がジャガイモの運命を変えた。
1540年ごろ、スペイン人によって、ジャガイモは新大陸から欧州に上陸。フランスにも、スイスを経由して入ってきたが広まらなかった。その上、1630年には、ブザンソンの議会が、ジャガイモは、らい病の原因であるとして栽培や食用を禁止したりしている。18世紀に入ってもせいぜい豚のえさとして栽培されるくらいで、ほとんど無視されていた。
18世紀半ば以降、フランスでも飢饉が重なり、農学者の間で、育てやすく栄養価の高いジャガイモが注目されるようになる。そこで登場するのがパルマンティエ氏。1782年、ジャガイモの効用をうたった論文を発表し、学会で賞賛される。ジャガイモと小麦粉半々のパンの作り方を紹介したりするが、まだまだフランス人の食卓にはのらない。
「貧乏人の食卓だけでなく金持ちの食卓にも、単に栄養価が高いというだけでなく、おいしいものとして登場しなければいけない」と考えたパルマンティエ氏は、1786年、ルイ16世の支持を得て、不毛の地として名高かった現ヌイイ市のサブロンに、嘲笑を浴びながら種イモを植える。苗が出、茎がみごとに伸び、花が咲き、イモが大きくなる。パルマンティエ氏はさっそく花とイモをルイ16世に献上。ルイ16世はその花を胸に、女王は帽子に刺し、食卓にはジャガイモ料理。これをきっかけに、貴族たちも王にならい、庶民の間のジャガイモへの偏見も消えていったという。パルマンティエ氏、なかなかの宣伝マンでもあったのです。
●「フリーダムフライ」
アメリカ主導のイラク戦争にフランスが反対したことで、反仏感情がたかまり、一時フリットは「フレンチ・フライ」から「フリーダム・フライ」と呼ばれるようになったが、7月にオバマ米大統領候補が来仏してサルコジ大統領に会った時「アメリカ人は、再びフレンチ・フライと言うようになった」と言ったそうだ。フリットは外交道具にもなるのだ。