映画で名高くなった北の町のフリット小屋。
パリ北駅からTGVでダンケルクまで2時間かかる。さらにローカル線に乗り換えて2駅目のベルグ。この町は映画『Bienvenue chez les Ch’tis』の舞台となったところで、その駅は、バタービスケットみたいに可愛らしかった。城壁に囲まれたこぢんまりとした旧市街。文房具屋、タバコ屋、カフェ…商店に入ると誇らしげに撮影隊の写真が飾られている。
カリヨンの鐘が複雑な和音で音楽を奏でる中央の広場。探すのはもちろん、Barraque à Frites(フリット小屋)だ。しかし広場を何周しても映画に出てきた〈Chez Momo〉が見あたらない。観光局で聞けば「あれは映画のためだけ…町の常設フリット屋2軒はバカンス休業に入ったばかり」と、肩すかしの答。唯一営業している店のありかを聞いて行ってみると、私と同じような経緯をたどった旅行客や単に昼ごはんを買いにきた人々、とにかく〈フリット食べたい人種〉の人だかり。全体的に静かな町なのだが、ここ一角だけ、人が密集。
ベルギーからベルグに寄った60代の二組の夫婦は「映画を観てベルグでフリットが食べたかった!」。口のまわりにマヨネーズをつけたまま食べ続けるおじさんは郵便屋さんだったから(映画の主人公と同業者)、「やっぱり感慨深いよ!」。フリカディーユ(揚げソーセージ)+フリット+ビールのセット8.5ユーロを食べている。ここのフリットの味についてたずねてみた。「客が多いからか、揚げ時間が短い。ふつうは二度揚げするけれど一度だけなのかな*。色も白い。もっとこんがり色がつくまで揚げれば、カリカリっとしておいしいのに」。奥さんからもひと言。「フリットは簡単に見えて、そう簡単なものじゃないのよ…。ベルギーには、フリット屋が高速沿いにもあるし、私たちの住んでいる周辺にも、直径1km内に4軒はある。揚げたてポテトを、円錐にした紙に入れてササッと素早く包んでくれるけれど、それは、もう職人芸! 家でも作るのよ。料理に応じて、いろいろなジャガイモを使うけれど、フリットは、やっぱりビンチが一番ね」。フリット話がとめどなく溢れ出る。小さなフリット小屋から始めて、三代で御殿を建てたベルギー人一族の話までしてくれた。
そういえば、ここベルグからベルギーまでは10キロもない。(澄)*「二度揚げしている。一度目は10分くらい。二度目は2分くらい」と店の人。
〈Ch’tis 〉セットメニューをほおばるベルギー人たち。映画に影響されてフリットを食べるため越境。
フリットは日常。家に友人が来ても、食事の用意がしてない時は、フリット屋に出かけたりする。